花冷えですね。
花散らしの雨ですね。
朝、ラジオをつけるとパーソナリティーが、今日の寒さと天気について話していた。
白湯をふーふーと冷まして一口すする。ふと、雨に濡れながら花びらがひらひらと散っていく情景が頭に思い浮かぶ。儚さに、寂しさを感じながらも、こんな情景を想起させる日本語の美しさにはっと気づいて、なんだか、寒いのも、雨なのも、いいかもしれないと思った。
変な歌。
そう、わたしも、彼の歌をはじめて聴いた時そう思った。
記憶が曖昧だけど、確かその缶コーヒーのCMでは「変な歌」って、言うんだ。黒木瞳さんが忌野清志郎さんの歌に対して。愛をこめて「変な歌」って、ね。
わたしは、だんだんとその変な歌にのめりこんでいって、いつしかなくてはならない歌になった。変だけど。
まっすぐな日本語、素直な日本語、そのくせ恥ずかしがりやで等身大。見た目は派手だけど飾らない言葉。
昨日、4月2日は忌野清志郎さんの誕生日。小谷忠典監督の映画「たまらん坂」を見た。RCサクセションの歌に「多摩蘭坂」というのがあってだね、この映画を知った時、ただただ忌野清志郎ファンとして、「多摩蘭坂」好きとして見に行きたいと思った。だから、あらすじも読まずに出かけたんだ。本映画の原作は黒井千次さんの『たまらん坂』。映画は、「たまらん坂」という坂の名前の由来を探し求めながら、主人公・ひな子が自分の故郷を探しに旅する物語。土地の名前が気づかせる、呼び起こす、過ぎ去った人々の残像と自分の過去。本のページをたんたんとめくるように物語はすすむ。たんたんとと思っていると、急に本をめくる人が変わったりして混乱する。映画の鑑賞者でありながら、読者でもあり、読書をする人を鑑賞するようなことも起こり、とても不思議な体験だった。
東京に行くんだ! なんて気張って上京して早十年とちょっと。不思議なことに、だんだんと故郷のことが気になってきている。今の生活は東京にあっても、わたしのルーツは新潟にある。その新潟のことをもっと知りたいという気持ちになってきている。だから、ひな子の気持ちにちょっと寄り添えた。
ところで、わたしが通っていた小・中学校の近くには「どっぺり坂」という坂がある。これまた不思議な名前だから調べたことがある。昔、この坂の上には、旧制新潟高校(現新潟大学)とその学生寮があり、坂の下には、花街である古町がある。学生たちは繁華街に遊びに行きたいけれど、坂を上り下りして遊んでばかりいるとダブるぞ、落第するぞと言われてしまう。 落第することを、 ドイツ語の「二重」を意味する「Doppel」から文字って「ドッペる」と言っていたそうで、そこから「どっぺり坂」と坂にも名がついたそうですよ。ふむ、地名を旅するのはおもしろい。当時生きていた人たちの幻が浮かんできそう。ちなみに、わたしはどっぺり坂を上り下りするのが好きだった。坂を登りきると、まったく違う世界に行けそうな気がしていたんだ。急にひまわり畑でも広がっているんじゃないかとか想像にふけっていたんだ。
花冷え。
思いがけない寒さになじむことができず、やはりどうも苦手な季節。
それに新月だから月が見えなくてね。
だけど、そのうち君の口に似ているお月さまがのぞくから。