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岩礁の神社「衣毘須神社」に行きたくてー島根県・益田市

投稿日:

午前9:40。石見・萩空港着。曇天。
チェックイン時間はまだまだほど遠いが、ホテルに荷物を預け、益田の町に繰り出した。


さて、どこに行こうか。


益田駅前の観光案内所に入ってみることにした。きっと、自分では見つけられない情報に出会えるはずだ。いろいろおすすめしていただいたのだけれど、はじめて訪れる地ではない故に、すでに行ったことがある場所ばかりで…申しわけなく、その旨を伝える。一堂、顔を見合わせて、どこがいいかなあと再び考える。

ぐるっと案内所の中を見渡してみると「海に浮かんだ島に鳥居が立っている」写真が表紙のパンフレットと目が合った。「行ってみたい」、すぐにそう直感した。まだ、昼前だ。時間はたくさんあるから、少し遠出をしても良い。これは「衣毘須神社(えびすじんじゃ)」で、「海岸の岩礁「宮ヶ島」に鎮座する、事代主之命(ことしろぬしのみこと)、えびす様とも呼ばれる神様を主祭神とする神社」とある。ふむ、岩礁に鎮座する神社とは実に興味深い。さらに続けて「干潮で風の穏やかな日などに、砂浜を通って参拝することができることから、山陰のモンサンミッシェルと呼ばれている」と紹介されていた。なるほど、大潮の時は砂浜が海で覆われるから、島に渡ることができなくなるのか…。ますます興味を掻き立てられる。

「ここに行ってみたいです」

と観光案内所のスタッフの皆さんに伝えると「確かにとてもきれいでおすすめだけど…」、「だけど??」「あまり交通の便はよくないですよ」「歩いては…」「ここから?! それは無理ですよ(苦笑)、ここからバスか電車で、戸田小浜まで行って、そこから神社まで歩いてください。海岸沿いを歩くのは気持ちいいと思いますよ。しかし、バスも電車も本数がとても少ないので気を付けてください。特に帰りは注意です」

ひとめぼれしてしまったのだから、行ってみなくちゃ。

案内所のみなさんにお礼を告げる。電車を調べると、もう間もなくやってくるではないか。ラッキーガール。幸先の良いスタートだ。200円の切符を買って、高架橋をわたって向こう側のホームに向かう。階段をのぼりながら、ふとteshがつぶやく。

「また行き当たりばったりの旅やなあ。なかなか行きにくそうな場所だけど、本当に大丈夫かね」
「まあ、何かしら事件は起こりそうだけど、いつもそんな珍道中を楽しんでいるじゃないか」

そう。いつもあまり丁寧に計画を立てないわたしの旅はだいたいスムーズにいかない。ノイジーなことが多い。自動販売機で缶コーヒーを一本買う。プルタブに指をかけ、一口ごくり。缶コーヒーのあの味だ。曇天の雲行きをみながら、ぼーっとホームのベンチに座って電車が来るのを待つ。ホームには他に誰もいない。あと数分で電車が来るはずなのだが、気配を感じない。「おかしい」。わたしの中で、いやな直感と、新潟の関川村に行く道中で乗るべき電車を見送ってしまった悪夢が蘇ってきた。今一度、乗り場や発車時刻が表示される電光掲示板を仰ぎみる。「13:11発」。iphoneは「11:07」を指している。何故だ…時間を2時間も勘違いしていた。このホームで2時間も待つわけにはいかない。


せっかくラッキーガール! とまでテンションが上がったのに、神社には行けないのだろうか…。別の道がないか調べると、10分後くらいに神社近くのバス停に行くバスがあるではないか! 急いで、残りのコーヒーを飲みほし、ゴミ箱に捨て、階段を駆け上がり、駆け下り、バスターミナルに向かった。もはや息切れである。ほどなくして、バスがやってくる。「間に合った…」、バスのシートに身をゆだね,ホっと安堵する。

「すみません。珍道中がはじまりましたね」
「そうですね。けど楽しいですね」

毎度のことだけど、いや毎日のことだけど、共にこのバタバタを楽しんでくれるteshにはとても感謝するとともに、だから一緒に生活してるんだなとしみじみ思う。バスが通る道はどれも懐かしかった。前回はあのお店に立ち寄ったなとか、あそこの老舗お菓子屋さんには謎にフィギュアがお菓子と同じくらいショーケースに並んでいたなとか、普段は決して引き出しの中から取り出しえない記憶が鮮やかに蘇えってくる。

だんだんと建物の数が減り、緑ばかりが目に入ってくるようになった。「次は、宮田です」と車内アナウンス。すかざず降車ボタンを押す。かわいらしいピンポーンが車内に響く。

「宮田」で降りたはいいものの、まわりは山、田んぼが広がるばかり。家屋はあっても、人の気配がしない。ポツネンとバス停がただそこにある、という風景だ。このバス停で待っていたら突然、トトロが隣にいてくれそうな。ここからは、Google MAPをたよりに神社を目指す。田んぼを通り抜け、石州瓦の屋根の家屋が立ち並ぶ、緩やかな坂を上り、どこまでも続いていそうなまっすぐな線路にかかる踏切を渡っていくと、海が見えてきた。

かすかに潮の匂いも伝わってくる。相変わらず人の気配はなく、とても静かだ。浜辺までたどり着くと、ざざーっと波が寄せては返す音が静寂さをより際立だせる。砂はとてもきめ細やかで白い。海は濁りがすくなく、青と緑が交じり合ったような美しい色を放っていた。これが曇天ではなかったらもっと透き通り、もっと限りなく透明に近いブルーなんだろう。砂浜をきゅっきゅっと歩きながら神社を目指す。途中何度か立ち止まって深呼吸をする。山でするそれとはまた違い、海の潮気とじとっとした夏の気配が混ざり合いスパイシーな気がした。

途中、たくさんの岩礁があり、それぞれにおもしろい形をしていた。そして目の前に現れる「衣毘須神社」。数時間前、たまたまパンフレットで見つけた場所に、こうしてやってきていることも何かの縁だろう。鳥居をくぐり、階段を上る。砂浜を歩いてきたせいで、脚にはすでに疲労がたまっていて、結構しんどい。しかし、てっぺんにたどり着いた時、そこから見渡せる、益田の海の美しさで、その疲れは吹っ飛んだ。訪れることができて良かった、心底そう思った。神社をお参りし、少し海風にあたりながら、海をぼーっと眺める。

すると、ポツポツと肌に冷たいものがあたる。雨だ。もう少しここでぼーっとしておきたかったけれど、ザーッと来ないうちに、ここを後にしようと、階段を下りる。

だんだんと雨が強くなってきた。コンビニもないし、雑貨屋さんのようなものもないから傘を買うという選択肢は絶望的だ。ちょっと雨宿りでもしたいものの、雨をしのげそうな屋根は見当たらないし、海沿いの家にも人の気配がない。ほぼ無意味に、早歩きをしてみる。するとどうだろう、だんだんと雨が止んできた。助かる。帰りは電車に乗るか~と決めていたので、そのまま「戸田小浜駅」を目指す。うまくいけば15分くらいで駅に着く。

雨が上がったと思ったら、容赦なく太陽光が照り付けてきた。暑い、暑すぎる。持ってきたペットボトルの水も底をつきそうだ。途中で、自動販売機を見つける。もはや、オアシス。ここで問題なのはお金だ。この自動販売機は現金しか受け取ってくれない。もっぱらキャッシュレスな生活に慣れて、小銭を持ち歩かなくなっていたので、2人の財布から小銭という小銭をかき集め、なんとか2人分の麦茶を買った。その場でゴクゴクとのどを潤す。そこからしばらくすると駅が見えてきた。結局、2、30分は歩いていたように思う。あ~~着いた~~と、思ったが、やはり人の気配がない。どうやら今は無人駅のようだ。蜘蛛の巣が張り巡らされた時刻表を見てみると……ふむ、早くて15:01、その次は17:59か。まだ時刻はお昼。ここで15:00まで待つわけにいかない。案内所の方の言葉が脳内でこだまする「バスも電車も本数がとても少ないので気を付けてください。特に帰りは注意です」。このことか…。では、タクシーは? とあたりを見渡すが、すぐにあきらめた。Uberも無理そうだ。

「歩きましょうか」
「それしかないようですね」
「途中で喫茶店とかあったら休みましょう」
「そうしましょう」

意を決して、ホテルまで歩いて戻ることにした。経路検索をすると、徒歩2時間8分と出てくる。うん、2時間くらいなら歩けるだろう。少々、お腹が空いてきたが、下っ腹に力を入れて歩き出した。海岸沿いの道。ずっと左手に海が見えるから、歩いているのが楽しい。しかし、人が歩かないのだろう。草が縦横無尽に生えまくり、歩道を覆いつくしていて、それをよけながら歩くのはいささか大変だった。すると、また雨が降ってきた。先ほどと同じく、雨宿りなんてする場所はない。延々とまっすぐの海岸沿いの道だ。しかし、さっきも雨は止んだから、この雨もすぐに止むだろうと、すでに慣れっこだ。そして、ほらね、止んできた。

歩きはじめの頃は、パシャパシャといろんな写真を撮ったり、「この植物はなんだろ~」といちいとたちどまったり、お互いの夏休みの思い出を語り合ったり、ふざけながら、これからたくさん歩かなくてはいけないことをおもしろがるようにコロコロと歩いていた。しかし、炎天下の下、雨に打たれたりしていると、身体がだんだん重たくなってくる。

「海の家とか、喫茶店とかないね」
「そうだな」
「お腹空いたね」
「ビールも空いたね」

だんだん無口になる2人。すると、また雨が降ってきた。汗なのか、雨なのか、分からない感じにTシャツもパンツも濡れてきている。雨はその後も降っては止んでを繰り返した。

途中、何度か工事現場を通った。交通整理をする方に奇異な目で見られていることがわかる。「ここ、人が歩くことあるんだ」という目。そんな視線を振り切って、歩みを進める。こちらの疲労をよそに、海はただただ美しい。

あの建物、飲食店かな? あれは海の家っぽくない? と遠くに見える建物に希望を見つけようとするが、近づくとだいたいクローズしているか、廃屋か…。だんだん、どうでもよくなってくる2人。

「かっこいいクレーンだね」
「スターウォーズっぽい」
「秘密基地か、何か研究施設っぽくみえるね」
「ああ、チューバッカに会いたいな」

かみ合っているようでかみ合っていない会話が続く。相変わらず突然降りだす雨。
すると「ダイニングカフェ 柿の木」という看板が見えてきた。さっき、パンフレットでも紹介されていたカフェだ。しかし、ここに至るまでのさんざんさを考えると、どーせ開いてなんでしょ、と半ばあきらめの心で、エントランスを進んでみる。すると「OPEN」の文字が掲げてあるではありませんか!! なんの迷いもなく、中に吸い込まれる2人。海が見える席にどしっと腰を下ろす。靴は砂まみれで、汗はかいてるし、雨に濡れているしのヒドイ有様だったので、申しわけなかったけれど、そんなことを気にしている心の余裕はなかった。隣のテーブルでは、優雅に女子会が繰り広げられていた。時刻は14時をまわっている。すでに2時間近く歩いていたようだ。経路案内通りにはなかなかいかない。たくさんあるメニューからteshは「豚のロースソテーーじゃが芋と玉ねぎ 野菜を煮込んだソース」を、わたしは「甘鯛のオムレットー枝豆のクリームソース」を注文した。まさかのおしゃれさである。食前にビールが運ばれてきた。もちろん注文していた。乾杯をし、ぐびぐびと流し込む。うまい。汗も、雨も、疲れもさ~っと流れる心地だ。糖質制限はどこへやら。運ばれてきた料理は、雑多で楽しかった。メインの料理に、豚汁やひじき、エビフライに温泉卵、漬物…小鉢でお膳の上は盛り盛りだった。一口ずつしっかり噛みしめて、まだまだ歩かなくてはいけない分のエネルギーを摂取する。心底、ごちそうさまでした、と思う。

栄養も休息も取れたところで、再び歩きはじめた。さっきより足取りは軽やかで、まだまだ歩けるぞ! という気分にリフレッシュできていた。相変わらず雨が降ったり止んだりだったけど、だんだんと町に戻ってきた。ユニクロやマクドナルドなんかが見えてきて、ちょっと安心をする。

あともう少し、あともう少し…という橋の上で…急に空の色がずんと黒くなった。とても嫌な予感がする。雲がぐるぐると不気味に動いている。すると、ポツリポツリとまた雨が降り出す。しかし今度の雨粒は今までと違い大きい。急がなくちゃと歩みを早めるが、次の瞬間、滝のように雨が降り出した。ザ―――――――ッ。もはや前が見えず、息もできないレベル。橋の上だから隠れることもできないし、急いで橋を渡り切っても、雨宿りができそうなところはなかった。さすがにこの時は泣きたくなった。しかし、とにかく歩く、歩くしかない。なかなか止まない滝雨。着衣水泳でもしたかのように、頭からつま先までびっちょりである。こんなはずでは…という寂しさとやるせなさから、何してるんだか、と自分の無鉄砲な行動に笑いすら感じられてきた。寂しさや怖さを通り越して笑ってしまうのは、なかなか極限状態だ。

しばらくして滝雨が止んでくれた。すると目の前にコンビニエンスストアがあるではないか。雨が止んだ後ではあったけど、ホテルまであと15分ほどかかるらしいので、もう、こんな思いはしたくない!! という一心で傘を買った。そこから、歩く、歩く、歩く。

ようやくホテルに戻ってこれた。ちなみに、傘を買ってから雨は降らなかった。
今回お世話になるのは、MASCOS HOTEL(マスコスホテル)。旅人や地元の人や物や多様な感性が混ざり合う「文化の交点」となることをコンセプトに、随所にクラフトマンの意匠が取り入れられている。


フロントの方が「だ、大丈夫ですか?!」と、タオルを渡してくれた。ふわっふわの真っ白いタイル。すかさず、そこに顔をうずめる。いいにおい。もうこのまま、タオルにくるまってどこまでも沈んでいきたい。

チェックインして、部屋に入る。
すぐに洋服を脱いで、ゴロンと布団の上に横になる。


「想像以上の珍道中でしたね」
「本当に」
「けど、とても美しい景色をたくさん見ることができましたね」
「うん。きっと、こんな目に合わなかったら、出会えないもがたくさんあったのかも」
「研究施設とか、雑多な定食とかね」
「そもそも衣毘須神社も、もしかしたら一生行くことがなかったかもしれないしね」
「楽しいですね」
「そうですね」

それから、プールみたいに広くてきれいな温泉とサウナに入って、コインランドリーで疲れ切った洋服を洗う。夜はホテルのレストランで益田の野菜や魚を使った料理を堪能した。その日の夜はDJイベントが開催されていて、疲れた我々の身体には、その音が少々大きすぎたのだけれど、まあ、それも良い。ちなみに、今日はどれくらい歩いたのかなと歩数をカウントするアプリをみていると、3時間 3万歩と表示され、「がんばりましたね! すごい!」と拍手してくれた。相手がアプリでもねぎらいの言葉は嬉しいものだ。お料理はどれもおいしくて、野菜がとりわけ「野菜」で最高だった。緑! 赤! 黄色! の味がちゃんとする。


部屋で仕事をしてから、布団にはいる。
先にteshはすやすやと眠っていた。

疲れさせてしまったことを心の中で詫びながらも、珍道中を一緒に楽しむことができる人に出会えたことにじんわり幸せを感じた。



あしたは、島根県立石見美術館ではじまる松江泰治さんの展覧会「松江泰治 JP-32」へ行く。
洋服がちゃんと乾きますように。


わたしもこの日ばかりは深く夜におち、眠ることができた。

旅情報

衣毘須神社
〒699-3762 島根県益田市小浜町630
https://masudashi.com/kankouspot/kankouspot-729/

ダイニングカフェ 柿の木
島根県益田市高津町イ-2582-10
https://www.instagram.com/dining.cafe.kakinoki/?hl=ja

MASCOS HOTEL
〒698-0024 島根県益田市駅前町30-20 
https://mascoshotel.com/


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