BLOG イベント レポート 落語

【レポート】三遊亭らっ好「えんぎらくご」ーおかえりなさい「えんぎやど」へ落語会ー2024年9月23日@KOKESHI GALLERY

投稿日:

2021年、旅館 澤の屋さんで開催中の展覧会「ようこそ『えんぎやど』へ」にふらっと立ち寄っていただいた三遊亭らっ好さん。出会ったその日には夢にも思っていなかったけれど、あの日から3年が経ち、2024年、旅館 澤の屋さんで「ようこそ『えんぎやど』へ」の続編として、展覧会「おかえりなさい『えんぎやど』へ」を開催することが決まりました。そこで、らっ好さんと再会することになるのです。といいますか、そこで落語会をしていただくことになりました。ご縁とは不思議なものですね。

コロナ禍で世界中からの旅人の訪問がなくなってしまった旅館 澤の屋さん。
そんな状況の中はじめられたデイユースや日帰りお風呂をわたしも利用させていただいたのですが、そのうちに澤さんご家族のホスピタリティに癒され、お宿の歴史のお話を聞いたり、お宿に漂う旅人たちの痕跡や気配を感じたりすることで…ここで培われてきた出会いや文化、ご縁をコロナ禍で絶やしてはいけない、何か力になれないだろうか、と考え、展覧会をしませんかと澤の屋さんに企画を持ち込みました。おこがましいかもしれない…と思っていましたが、澤の屋さんは真剣にわたしの提案に耳を傾けて企画を快く受け入れてくださいました。アーティスト エリカ・ワードさんと境 貴雄さんも企画の趣旨をよく理解し、展覧会への参加を快諾してくれました。そんなみなさまの深い理解と想いがあわさって、「ようこそ『えんぎやど』へ」が実現しました。いつか澤の屋さんに「ただいま」と「おかえりなさい」が飛び交うその日を願って。

それから3年が経ち、コロナ禍が落ち着いてきて、澤の屋さんには世界中から旅人が戻り、「ただいま」と「おかえりなさい」が飛び交うようになりました。そう、「ようこそ『えんぎやど』へ」の時に願っていた光景です。
今度は、澤の屋さんから、3年前のありがとうの気持ちを込めて、また何か一緒にしませんかとお声がけをいただき…そりゃもちろん断る理由はどこにもなく、嬉々として展覧会「おかえりなさい『えんぎやど』へ」の開催に踏み切りました。今回のテーマも「ご縁」そして「おかえりなさい」。3年前の「ようこそ『えんぎやど』へ」でご縁がつながったメンバーで開催したいと考え、アーティストはエリカ・ワードさんと境 貴雄さん、さらに3年前にご縁が繋がったPerfumer Koさんを加え、レセプションにはこれまた3年前にご縁がつながった野良ちりんさんを迎えることにしました。

メンバー全員で澤の屋さんに集まって打ち合わせ。展示の打ち合わせはスムーズにすすみ、レセプションも何やらうまくいきそう! なのですが、わたしの中にもうひとつ実現したい企画がありました。3年前につながったご縁を終結させて企画を盛りあげたいという想いから、三遊亭らっ好さんの落語会も開催したいと考えていました。打ち合わせで、その想いのたけを話したものの…みんなも実現できたらステキだねと賛同してくれたものの…澤の屋さんを会場にしての落語会はなかなか難しい。

打ち合わせを終えて…はて、落語会はどうしたものかと歩いていると、澤の屋さんから徒歩1分くらいでしょうか、とにかく目と鼻の先にある蔦がうっそうと茂った古民家に「KOKESHI GALLERY レンタルスペース」という張り紙が。「!!!」なんとタイムリーなのでしょう。これもご縁だと思い、早速問い合わせてみると、もう取り壊し目前だから9月中なら良いよとのお返事をいただくことができ(2025年の春頃まで取り壊しは伸びたようです)、こりゃあもう進むしかありません。
早速、三遊亭らっ好さんにお声がけをし、嬉しいことに二つ返事でOKをいただき、「おかえりなさい『えんぎやど』へ落語会 えんぎらくご」をKOKESHI GALLERYさんで開催することになりました。

せっかく展覧会の企画として開催する落語会なので、3人の作品を展示した空間での落語会にすることになったのですが、中でも、Perfumer Koさんが落語に香りの演出をしたいというアイディアを出してくれて、いざ、「落語×香り」、香りのDJという、きっと世界発の試みに挑戦することに。

果たして、どんな落語であれば、香りの演出ができるだろうか。
香りは花や果物、木やハーブ、スパイスなど自然界にある植物がメイン。
しかし、落語にはあまりいい匂いはでてここない…。
Koさんが持ってきてくれた香りの見本を嗅ぎながら、あーでもない、こーでもないと3人で打ち合わせをする中で……らっ好さんが銭湯好きなことも相まって『湯屋番』で「落語×香り」に挑戦しよう! と決まりました。らっ好さんの妙案で、若旦那が、番台に座っている最中にする妄想を香りと紐づけしやすいようにアレンジして、その妄想に合わせてKoさんが香りDJするという算段。なるほど、するとお客様にもいろいろな香りを楽しんでいただけるので、何やら楽しい挑戦になりそうです!

内容とともに進めなくてはいけないのは会場構成、会場づくり。KOKESHI GALLERYさんでははじめての落語会なので、ギャラリーのオーナーと一緒に高座はどうやって作るか、客席はどうするかと視察と打ち合わせを重ねる日々。オーナーが古道具やさんや解体業もされているので、DIYのアイディアががとっても豊富で、ゼロだったところから落語会会場のイメージがむくむくと立ち上がってきました。高座はギャラリーに会った勉強机、後幕は襤褸を使い、客席はビールケースに足場を乗せて作ることに。ビールケースや足場はすべてご近所さんから貸していただいたもの。
谷中の街と人々に支えられた落語会で、ここにもご縁を感じずにいられません。

迎えた当日。入り時間に台湾漁師編みバッグを片手に現れたらっ好さん。いつものらっ好さんの軽やかさに、レトロかわいいバッグがなんとも谷中の街に馴染む。良き。

会場は朝から仕込みはじめ、高座に客席、出来たてほやほやのらっ好さんのめくり、そして、エリカさんの宮彫りをテーマにした作品と境さんがえんぎやどのために撮りおろしをしたらっ好さんのアズラーポートレイトも展示されてすっかり準備万端。らっ好さんの手ぬぐいもはためいて、通りすがりの人たちが二度見三度見して「なんだなんだ」と興味を示してくださる。気になってもらえることはとても嬉しい。


おかげさまで、満員御礼、大入りの中、幕を開けることができました。たくさんのお運びに心から感謝です。welcome フレグランスとして、Perfumer Koさんが谷中と旅館 澤の屋さんをイメージして調香した「谷中ブレンド」でみなさまをお迎え。

谷中と落語にまつわるお話、らっ好さんと谷中の思い出をまくらでたっぷり語っていただいた後、『ぞろぞろ』『片棒』を口演いただきました。
『ぞろぞろ』は荒物なんかも売っている老夫婦が営む茶店の噺。わらじがキーワードで、後半には床屋さんも出てくる。古道具屋もされているKOKESHI GALLERY、しかも相向かいには床屋さんもあるので、ああ、この場所にちなんでの演目を選らんでくださったんだなあと、会に寄り添った演目選びが嬉しい限り。らっ好さんの丁寧な噺ぶりはお客様の心にすっと入り込んで語りかけるよう。老夫婦の間に流れるのんびりとした時間と雨降りでわやな外の様子と外からの訪問客の対比の表現が素晴らしく、物語のおもしろみを掻き立てます。それにしてもなんでもご利益に変えてしまう婆さんのポジティブシンキングにあやかりたいものです。
『片棒』はけち一筋な赤螺屋吝兵衛が三人の息子の誰に跡を継がせるか、自分の葬式の出し方を聞いて思案しようとするのですが…。らっ好さんの張りのある声と表情の豊かさと、オーバーなほどの身振りが見事に3人息子の飽きれた葬式の案を助長させます。飽きれつつも、誰がいいとか悪いとかではなく、お金の使い方を通じて登場人物が何を軸に生きているのか、その人らしさがすっくと抽出されて伝わってくるのは、らっ好さんが人間らしさを愛する落語家だからなんだろうなと感じるばかりでした。

photo by 境 貴雄

仲入りをはさんで、いよいよ『湯屋番』へ。
お客様に香りを行き届かせるために、扇風機を2台使って香りを飛ばします。
1台はKOKESHI GALLERYさんにあったなんとも懐かしいナショナルの扇風機、もう1台はKoさんが持参したダイソンの扇風機。白衣を決めたKoさんの出で立ちもあいまって、過去と未来が共存しているような香りDJブースがなんともかっこいい。

しょっぱなから、ああ、やはりらっ好さんは落語界の住人なんだなと思わせるくらい若旦那が憑依して会場を若旦那のリズムに巻き込んでいきます。噺が進み、いよいよ若旦那の妄想シーンへ。らっ好さんの手にかかると若旦那のデレデレ妄想はもはやトランス状態の粋に達しているようで、引き戻さなくてはやばいんじゃないのと心配になるくらい。くらくらぐるぐるとらっ好さんが巻き起こす渦の中に惹きこまれていると、くんくんくん、何やら漂ってきました。いい女を想起させる花の香り、かと思うと女中を想起させる香り、石鹸の香り、イチゴやモモなどフルーツの香り……。若旦那の妄想に合わせてPerfumer Koさんの香りDJが繰り広げられて、会場内に香りが次々と立ち込めます。まさに香りのハメモノです。香りを通じて、若旦那の妄想が具体的に目の前に現れるかのようですが、香りという存在は説明臭くなく、より想像力を膨らませる着火剤のよう。

落語と香りのタイミングがばっちりあった瞬間は、主催者ながらにちょっと涙。
落語と香りDJ、お互いの表現を尊重し合いながら呼吸を合わせる。この絶妙なタッグにしびれました。

オチも今回にあわせてアレンジするというらっ好さんの粋な演出。
世界初の落語×香り、『湯屋番』えんぎらくごver爆誕です!


最後はえんぎやどメンバー全員でトークをして、このご縁が続きますようにと、らっ好さんが3本締めをしてくれました。あたたかく一体感が生まれ、ビシッと空気が締まりますね!

人が集まることが許されなかった3年前。
こうして、お客様とえんぎやどメンバーで、この場をこの時間を一緒に過ごさせていただくことができ感無量でした。しかも、世界初の試みを共有できたことは幸せの至り。会場から澤の屋の若旦那が見守ってくれていたことも嬉しかったです。わたし自身は、空調などなどうまくできていなかったところもあり反省しきりでありながら、次に活かしていきたいと思います。この場を借りて改めてみなさまに御礼申し上げます。

ところで、『湯屋番』のほかにも候補に挙がった演目もあるので……
また、このメンバーで「えんぎらくご」ができますように!

左からエリカ・ワード、Perfumer Ko、三遊亭らっ好、境 貴雄、本屋しゃん

演目&香りセットリスト

えんぎらくご詳細

落語+香り+アート
おかえりなさい「えんぎやど」へ落語会
三遊亭らっ好「えんぎらくご」

日程:2024年9月23日(月・祝)
時間:17:00開場、17:30開演
場所:KOKESHI GALLERY (東京都文京区根津2-34-24)
アクセス:東京メトロ千代田線「根津駅」から徒歩5分
木戸銭:2500円 ※事前決済制
https://honyashan.com/welcome/sanyuteirakko-engirakugo/

展覧会情報

おかえりなさい「えんぎやど」へ
谷中の老舗旅館 澤の屋を舞台にした展覧会 ーイラストレーション・彫刻・香りー

会期:2024年9月22日(日)〜10月13日(日) ※会期中無休
時間:14:00~18:00  ※金・土は19:00まで
※鑑賞いただける時間は澤の屋の営業時間と異なりますのでご注意ください
会場:旅館 澤の屋 1階(東京都台東区谷中2-3-11)
アクセス:千代田線 根津駅より徒歩約7分 
入場料:無料 
https://honyashan.com/welcome/okaerinasaiengiyado/
※境 貴雄さんによるらっ好さんのアズラーポートレイトも展示中です。お見逃しなく!

関連情報

旅館 澤の屋さんからもほど近い、しのぶ亭でらっ好さんの独演会が開催されます。ぜひ。
三遊亭らっ好のしゃべり場
日程:2024年10月13日(日)
時間:13:00開場 13:30開演
会場:池之端しのぶ亭(東京都台東区池之端2-5-47)
料金:前売り2000円、当日2500円
https://x.com/sanyuteirakko/status/1843832893363368049

-BLOG, イベント, レポート, 落語
-, , , ,

執筆者:

関連記事

あなたが見せてくれた鳥取砂丘

君に、ガンジス川を見せたいんだ。何度も何度もそれを夢に見るんだ。 あなたは常にそう言っていた。 インドに行こう、バラナシに行こう、そしてガンジス川を一緒に見よう。『あなたが見せてくれたガンジス川ーイン …

新収蔵記念 特別展 「松江泰治 JP-32」@島根県立石見美術館~2022/8/24

飛行機に乗っている。とても久しぶりに。とても久しぶりに、空を飛んでいる。とても久しぶりに、空を飛んでるってすごいなと感動する。陸、海、そして雲へ、雲の上へ。この地球の層をつき抜けていく。ぼーっと窓の外 …

\「外の目で中から見る日本」−Erica Ward Solo Exhibition@Atelier485 柴又〜2021年6月20日/

アーティスト エリカ・ワードさんとの出会いは、わたしがエリカさんの作品集『路線図色』に惚れ込んだことがきっかけでした。本書は、銀座線、丸ノ内線、日比谷線、東西線、浅草線……など、東京の生活で欠かすこと …

\いっぱいいっぱいありがとうございました!「忘れられた江戸絵画史の本流」展「江戸狩野派の古典学習」展図録のこと/

ご縁あって、静岡県立美術館で開催された「忘れられた江戸絵画史の本流」展「江戸狩野派の古典学習」展図録を販売させていただくことになった本屋しゃん。まずはご報告を。再再再入荷までさせていただきましたが、全 …

\本屋しゃんの旅 −「康夏奈/原口典之 追悼展」@ART BASE百島 in 広島〜12/13/

これまでにも広島へは何度か旅をしました。その目的のほとんどは、広島市現代美術館。秋山祐徳太子+しりあがり寿 ブリキの方舟、松江泰治 地名事典|gazetteer、山口啓介 後ろむきに前に歩く。どれもわ …