一條宣好さま
2021年12月1日(水)豪雨からの快晴
昨晩遅くから激しい雨が降り、なかなか寝付けませんでした。いや、普段からあまり寝付けないわたしです。雨にうなされながら目を覚ますと、12月になっていました。2021年も残すところあとひと月。
ことあるごとに、頭の中には南方さんと一條さんのお顔が浮かぶ日々。
それにもかかわらず、前回、一條さんにお手紙をいただいたのが5月なので、お返事を書くのに半年もかかってしまいました。スピーディーな令和の世を生きているとは思えない、この遅筆っぷり。自分でもいはやは…となっておりますが、なんだか今日は、一條さんにお手紙を書きたくて仕方ありません。特にこれといって特別な日でもないのですけどね。不思議なものです。
いつも一條さんからのお手紙は、南方さんへとつながる入口がたくさんちりばめられていて発見の連続です。『ペンギン・ハイウェイ』、とてもおもしろそうですね! いたるところにペンギンが現れる怪事件って! 想像するとかわいいんですけど(笑) しかも、「ミナカタ・クマグス」が登場するなんて、素敵すぎますね。「怪」な本にはやはり南方さんはつきものなのかしら、なんて思ったり。
一條さんにお伝えせねば!と思っていた南方さん情報があります。東京の駒場にある「日本近代文学館」の知人から、ある日、同館の館報『日本近代文学館』No.302 (2021年7月15日刊)が届きました。謝謝。
館報のバックナンバーは日本近代文学館のWEBショップでお買い求めいただけます。気になる方はぜひ!
何だろ?とページをめくると、そこには南方さんの名前が載っているではありませんか。なんでも、雑誌「動物文学」の創刊で知られる平岩米吉さんの関連資料が多数「日本近代文学館」に寄贈されたとのこと。その中に、平岩さんが創刊した雑誌「動物文学」の諸家原稿も含まれていました。同誌には、坪田譲治、室生犀星、小川未明、まど・みちお など、さまざまな文化人が寄稿をしていたのですが、南方さんもそのうちの一人でした。そうです、今回、同館に寄贈された資料の中に南方さんの原稿もあったのです。原稿の内容は「タクラタといふ異獣」。タクタラとは、ジャコウネコのことではないかという小論考らしいのですが、平岩さんは「多少趣も変つたものを数篇収めることの出来たのは幸」と、南方さんの名前を挙げていたようです。「十二支考」はあっても、「動物文学」でくくられている南方さんを知らなかったので、わたしにとっては新たな発見でした。さらに、平岩さんの言葉がとてもおもしろく、やはり南方さんのポジションはど真ん中ではなく、スパイスであり、おもしろい視点を投げかけてくれる存在なんだなと改めて感じた次第です。やはり「怪」ポジションなのか?!南方さんの原稿を見に行きたいな。
一條さんへのお返事をあたためている間、東京の下町の老舗旅館 澤の屋さんにて1か月間「ようこそ『えんぎやど』へ」という、旅館全体を使った展覧会を企画開催しました。
「えんぎ」、この言葉に寄り添う日々が続いて、常に南方さんが傍にいてくれているようで心強かったです。わたしが尊敬してやまない、南方さん研究者の方も展覧会にいらしてくださって、目に見えない「えんぎ」が可視化され、体感できた一か月でした。
もうひとつ、一條さんとの出会いのきっかけである『街灯りとしての本屋。』を強く想起しました。澤の屋さんもコロナ禍で厳しい状況を強いられています。厳しい状況でも、灯りを消すことなくみんなの帰りを待っていてくれる澤の屋さん。ご近所の人がお風呂に入りにきたり、デイユースでお仕事をしたり趣味の時間を楽しんだりと、お客様が旅館をおのおのに楽しまれている様子を間近で体感し、ここが「街灯り」になっているということに気づきました。そして、灯りのあたたかい包容力に感動していました。わたしなんかちっぽけだから「街灯り」を絶やさないお手伝いを隅から隅までなんてできないし、時にはそれがおこがましくなってしまう、いきすぎたら暴力になってしまいかねない。だけど、わたしはわたしのできる範囲で、大切な街灯りをともし続けるお手伝いができたらいいなと思いました。
そうそう、展覧会のアイディアを書いたメモ用紙は、まさに「腹稿」のようでした(笑)もはや、わたししか解読できないやつです(笑)。
なんだか、もっと一條さんにお話したいことがあったはずなのですが、お手紙を書いているだけで幸せな気持ちになってきました。いたるところに透明の壁がたちはだかり、物理的に人と人が分断される世の中になってしまいました。だけど、こうして手紙を書きながら一條さんと南方さんのことを思ふと、そんな分断への苦しみが和らぎ、透明の壁を越えられる場所、方法があるんだなとしみじみ感じています。
どうぞステキな12月をお過ごしください。
また、お会いできる日を心待ちにしています。
中村翔子
【往復書簡メンバープロフィール】
一條宣好(いちじょう・のぶよし)
敷島書房店主、郷土史研究家。
1972年山梨生まれ。小書店を営む両親のもとで手伝いをしながら成長。幼少時に体験した民話絵本の読み聞かせで昔話に興味を持ち、学生時代は民俗学を専攻。卒業後は都内での書店勤務を経て、2008年故郷へ戻り店を受け継ぐ。山梨郷土研究会、南方熊楠研究会などに所属。書店経営のかたわら郷土史や南方熊楠に関する研究、執筆を行っている。読んで書いて考えて、明日へ向かって生きていきたいと願う。ボブ・ディランを愛聴。https://twitter.com/jack1972frost
中村翔子(なかむら・しょうこ)
本屋しゃん/フリーランス企画家
1987年新潟生まれ。「本好きとアート好きと落語好きって繋がれると思うの」。そんな思いを軸に、さまざまな文化や好きを「つなぐ」企画や選書をしかける。書店と図書館でイベント企画・アートコンシェルジュ・広報を経て2019年春に「本屋しゃん」宣言。千葉市美術館 ミュージアムショップ BATICAの本棚担当、季刊誌『tattva』トリメガ研究所連載担当、谷中の旅館 澤の屋でのアートプロジェクト企画、落語会の企画など、ジャンルを越えて奮闘中。下北沢のBOOKSHOP TRAVELLRとECで「本屋しゃんの本屋さん」運営中。新潟出身、落語好き、バナナが大好き。https://twitter.com/shokoootake
【2人をつないだ本】
『街灯りとしての本屋―11書店に聞く、お店のはじめ方・つづけ方』
著:田中佳祐
構成:竹田信哉
出版社:雷鳥社
http://www.raichosha.co.jp/bcitylight/index
※この往復書簡は2020年2月1日からメディアプラットフォーム「note」で連載していましたが、2023年1月18日より本屋しゃんのほーむぺーじ「企画記事」に移転しました。よろしくお願い致します。