倉敷では「倉敷国際ホテル」にお世話になりました。
JR倉敷駅から歩いて10分くらい。
倉敷美観地区の入口のすぐそば。
ホテルの前につくと、どっしりとした雰囲気のある佇まいに驚いた。
いつもの一人旅で、宿泊先にあまりこだわらないわたし。
こだわるとしたら、「おもしろそうかどうか」が基準で、民宿やAirbnbなどを利用することが多いの。
当たり前なんですけど「おお……ホテルだ」としばし立ち止まってホテルを見上げる。その美しさに惚れ惚れした。
中に入ると吹き抜け空間が広がっていて、ロビーの真ん中には大きなクリスマスツリーが飾ってあった。とってつけたような飾りではなく、ホテルの内装によく似合っていた。「団欒」。そんな言葉が似合いそうな空気が漂っていたなあ。
クリスマスツリーを中心にぐるりとロビーを見渡すと、吹き抜けスペースに大きな大きな絵があった。見覚えのある画風。
棟方志功………だよね??
棟方さんは、青森出身。
わたしは青森が好きで、よく旅に行く。そんなたびの道中、青森県立美術館、棟方志功記念館などで、棟方さんの作品に触れていたこともあり、倉敷に棟方さんの作品が、それにこんなに大きな大きな作品があることにうまく馴染めなかった。
翌日、おばあちゃんとモーニングを楽しんだ後、大原美術館に向かった。
美観地区は、早朝の雰囲気とは異なり、修学旅行生やツアー客で賑わっていた。
楽しそうで何よりと思いながらも、誰もいない美観地区をお散歩しておいてよかったって、心の隅っこの方で思ったのはここだけの話。
はじめての大原美術館。ずっと訪れたかった場所。
今朝方、白鳥がスヤスヤプカプカ寝ていたあたり。
白鳥もさすがに目覚めていて、スイスイと一丁前に泳いでいた。
大原美術館は、日本最初の西洋美術中心の私立美術館。事業家の大原孫三郎が、友人である画家・児島虎次郎の死を悼み、虎次郎が描いた作品と、西洋の美術品を中心とする彼が収集した作品群を公開するために、美術館を建設を決意。そうして昭和5年に誕生したのが「大原美術館」です。
ここが、大原美術館かあ。
と、長年の夢を叶えられたことの嬉しさと、美術館の重厚な雰囲気にドキドキしながら一歩中へ。
常套ですが、冒頭には「ごあいさつ」のパネルが掲示されていました。
不真面目なわたしは読みとばしてしまうことが多々なのですが……大原美術館のそれは、杓子定規な挨拶文ではなく、この美術館を支える皆様の本当の想いが感じられて、心にグッとくるものがありました。
思わず、ノートと鉛筆を取り出して全文をメモ。
昨今、メモをするとなるとケータイで写真を撮っておしまいということがほとんどだけど、こうしてノートに書き留めるというのはやっぱりいいねえ。言葉が体に染み込んでいくのがよくわかりました。
外出や旅行がままならない中、大原美術館を選んでくれてありがとうございます。
すぐれた芸術は固くなりがちな心をほぐし、新たな視野を開いてくれる。
それらに触れる体験が、新しい時代をしなやかに生きる力になれば幸いです。
みなさまが大原美術館で過ごすひとときが健やかになるようスタッフ一同心を尽くしてまいります。
虎次郎の「日本の芸術界のため」という作品収集への想いと、孫三郎の「広く社会に意義あること」、「今を生きる人々にとって意義あること」という想いが今もしっかり土台にあって、2人の意思が時代を超えてもちゃんと受け継がれているということが良くわかりました。さらに、大原美術館の皆さんは美術を本当に愛されているんだということがビシビシ伝わってきて、入口からすでに、ああ、訪れることができてよかった、と感動した次第です。
わたしも幾度となく、美術に触れることで凝り固まった頭をほぐされ、生きる力をもらってきたなと。
こうして展示されている作品をひとつひとつ見て回ると、絵筆の痕跡ひとつひとつが躍動感を持って見えてきて、作品の向こう側にいる作家たちのあたたかさが伝わってくるかのようでした。資料として保存されているだけではない作品。過去のものでも、ここに所蔵されている作品はのびのびと呼吸をしているなあと感じました。有名な作家の作品でも、こんな画風、作風もあったのか!!という発見がたくさんあったのも嬉しかったなあ。
ん〜〜〜お腹いっぱいだわ!幸せだわ!と本館を出ると、この先に「工芸館・東洋館」があるよ〜と(わたしが訪れた時は分館はお休み中でした)のことで、こちらも行ってみることに。元々は米倉だったそうで、とても良い雰囲気。工芸館には、浜田庄司、バーナード・リーチ、河井寛次郎の陶芸作品や、芹沢銈介の染色作品、東洋館には虎次郎の収集品を中心に東洋の古代美術品が展示されていました。
ここに棟方志功の部屋もありました。
おお〜?!やはり、棟方さんは倉敷と縁があるのかしら?
と、キャプションを読んでみると、倉敷国際ホテルについて言及されていました。
倉敷国際ホテルにかかげてある大板壁画は、棟方さん最大の作品で、木版画では世界最大という。タイトルは《大世界の柵・坤-人類より神々へ》。1963年、倉敷国際ホテルのオープンに合わせて、大原孫三郎の息子で、同ホテルの創設者である大原總一郎が制作を依頼したものとのこと。
棟方さんは、大原邸の襖絵を描くという縁から、戦時中、ほぼ毎年、倉敷を訪れていたそうな。
なるほどーーー。全くもって不勉強でした。大原家と倉敷の歴史、そして大原美術館と倉敷国際ホテルの歩み。なぜ、棟方さんの作品が倉敷にあるのか。工芸館でビシッと、その疑問が解けました。
そのあと、ホテルに戻ってから改めて、ロビーに展示してあるでっかいでっかい棟方さんの作品を見上げます。
「この作品が一番良く見えるのは何階ですか」
ホテルのコンシェルジュのお姉さんに尋ねると、2階〜3階だという。
階段をあがって、2階、そして3階から作品を見つめる。
ああ、良い、良いよ〜〜〜。
言葉なく、ただただ、棟方さんの気迫を感じとって、恍惚としていました。
何も知らずに、たまたま宿泊を決めたホテルでこんな出会いをすることができて嬉しかったなあ。
無知で来てしまった旅に少し反省をしながらも、無知ゆえに広がる好奇心にわくわくとドキドキを隠せないのも、これまた事実。
それにしても、棟方さんの笑顔は最高に素敵だよなあと、工芸館で見た、棟方さんのポートレイトを、ベッドに寝転がりながらふと思い出した。
関連情報
大原美術館
処:〒710-8575 岡山県倉敷市中央1-1-15
※詳細は美術館公式WEBサイトをご覧ください。
https://www.ohara.or.jp/
倉敷国際ホテル
処:〒710-0046 岡山県倉敷市中央1丁目1番44号(大原美術館隣)
※詳細はホテル公式ウェBサイトをご覧ください。
https://www.kurashiki-kokusai-hotel.co.jp/
勝手に選書。
『歌々板画巻』(谷崎潤一郎&棟方志功、中央公論新社、2004)
『画家のブックデザイン: 装丁と装画からみる日本の本づくりのルーツ』(小林真里、誠文堂新光社、2018)
『民藝の機微-美の生まれるところ 』(松井建、里文出版、2019)
『民藝とは何か 』(柳宗悦、講談社、2006)
『バーナード・リーチ日本絵日記』(バーナード・リーチ、講談社、2002)