彫刻家の金巻芳俊さんの作品を見ると、地面から足がふわっと浮き上がる感覚になる。きっと、いろいろな「時間」と「空間」が、さまざまな「次元」が一度に目の前に立ち現れるからかなって思っている。わたし、今、どこにいるんだろうという感覚とともに、金巻さんの彫刻のように自分の体が重層的になっていくんだ。デュシャンの《階段を降りる裸体 No.2》のような。いや、いやいや、それともまた違うなあ。肉体だけじゃないんですよね、いろんな感情が同時に沸き起こる不思議。
今、八丁堀に位置するギャラリーFUMA Contemporary Tokyoで金巻さんの日本では4年ぶりとなる個展「空蝉センシビリティ」が開催中。前期と後期の2期開催で、前期は版画とドローイング作品が中心に展示されています。
万華鏡を覗いたかのような、プリズムシリーズは、木彫の構想画。つまり……これをもとに、木彫を制作されるということだよね。「!!!」これがどうやって立体化になるんだーーーと興味津々です。
ふと、自分の学生時代を思い出した。
大学生の頃、哲学を学んでいたのですが、単位にならずとも美術の授業に積極的に潜り込んでいました(笑)。その中で、絵画を立体化してみようという授業があったの。好きな絵を立体化するの。わたしが選んだのはマティスの《ダンスⅠ》。MoMA所蔵の作品です。
まあ、マティスが好きというのもあったし、立体化する上で細かすぎる絵は、わたしの技量には向かないというのもあったし、何より、立体化するときにおもしろくなる作品を考えて、《ダンスⅠ》を選びました。きっと三次元にするには、躍動感あふれたほうが楽しいだろうと。
シンプルな形だから、簡単簡単と高を括っていましたが、ところがどっこいでした。だって、裏側見えないし。どんな厚さなんだろう、目線はどこを向いているんだろう、え、この足はどう曲がっているんだ……二次元の絵画から頭をフル回転して頑張って想像していきます。結果、自分ではなかなかお気に入りの《ダンスⅠ》の三次元化ができたのですが、大変だった〜(ただ、めっちゃ楽しかったです)。まあ、学生の頃の、しかも美大生でもなんでもないわたしのささやかな経験の思い出話なのですが……さらっと、二次元を三次元に!っていうけど、とっても難しい変換なの。
これまでに、トリメガ研究所さん企画の「めがねと旅する美術」展、台湾での「美少女の美術史」展、さらに、平櫛田中邸で開催された木彫の今を発信する展覧会「木学XILOLOGY」などで金巻さんの木彫の作品を楽しませていただいているんだけど、こんなにたくさんのドローイングや版画を拝見したのははじめてでした。そうか、金巻さんがいかにして二次元を三次元にしているのか、その変換の過程を覗くことができたかのようで感動的でした。
地面から足がふわっと浮き上がりながら、後にする画廊。
わたしは1人だけど、1人じゃないんだ、な。
節々の細胞が蠢いた、気がしたわ。
展覧会情報
金巻 芳俊
空蝉センシビリティ
前期:2月6日 (土) - 2月17日 (水) | 版画・ドローイング作品
後期:2月20日 (土) - 3月6日 (土) | 木彫作品
会場:FUMA Contemporary Tokyo
※詳細はギャラリーのWEBページをご覧ください。