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\このまま飲み込まれてしまうんだ、わたし。:VOCA展2021-現代美術の展望─新しい平面の作家たち─@上野の森美術館~2021/3/30/

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ソメイヨシノもちらほらとほころびはじめて、ぼんぼりが設置されはじめていた上野公園。今年の春はのんびりゆっくりお花見はできないけれど、桜を愛でたいという気配は変わらず漂い、心を穏やかにしてくれる。

そんな春の準備真っ只中の上野にある上野の森美術館で開催中の「VOCA展2021 現代美術の展望─新しい平面の作家たち─」を訪れました。

VOCA(=Vision Of Contemporary Art)展とは、全国の美術館学芸員、ジャーナリスト、研究者などに40才以下の作家の推薦を依頼し、推薦された作家が平面作品の新作を出品する展覧会。また、選考委員会によって、出品された作品の中からVOCA賞、VOCA奨励賞などを授賞。1994年から毎年開催され、今では現代美術の作家の登竜門ともと言われているの。

平面という形の共通こそあれ、推薦されている作家さんのコンセプト、テーマ、表現方法はさまざま。だけど、平面という物理的な共通点以外に、今回はどの作家さんからも作品を作ることへの執着、熱量をものすごく感じた。もはや、その気迫は平面を超えて、グイグイ立体的に立ち上がっていた。いや、グワっと襲いかかってきた。

こちらは、VOCA賞(つまり、大賞ね)を受賞された、尾花 賢一(おばな・けんいち)さんの作品《上野山コスモロジー》。

尾花 賢一《上野山コスモロジー》

大小様々な木枠と、道端の似顔絵から国立の美術館、野生の動物と動物園の動物など、上野の地理、歴史と文化を描いた画が、重層的に構成されている。白い壁にお行儀よく並ぶ予定だったであろう額縁が、あるいはそのように使われていた木枠がもはや踊り狂っているよかのよう。上野という土地のまさにコスモロジーを空間からも体感できる。こぼれ落ちてしまいそうなものたちが蠢いてた。

つげ義春さんが大好きなわたしは、この画風もたまらなく好き。
美術手帖で尾花さんへのインタビュー記事が読めるので、ぜひ。

その土地に触れ、変化することで紡がれる物語。「VOCA展2021」大賞・尾花賢一インタビュー/美術手帖 WEB
https://bijutsutecho.com/magazine/interview/23674



児玉 知己《cosmos》

こちらは児玉知己(こだま・ともき)さんの作品《cosmos》。「宇宙」が続きますねえ。植物のような、波のような、砂漠に風が吹い軌跡のような、顕微鏡を覗いた時の世界のようなものがキャンヴァスをびーーっしり埋め尽くしている。ものすごい生命力だ。うねうね、ぐにゅぐにゅ動いている。

児玉 知己《cosmos》 拡大部分

素直に、色や形が好きなんだけど、それ以上に惹かれる何かがある。何だろう、なんで私は、この作品がこんなに好きなんだろうとしばし絵の前で考える。相変わらず、うねうね、もぞもぞ生命のように画面が動いて見える。そうだ、粘菌だ!粘菌のような植物と動物、菌類の間、いやどれにもピタリ属さない、それらをまるっと包括してしまうような、生命そのものとしてのような存在。児玉さんの作品から粘菌にみる、生命の根源を感じたんだろうな。それは言い換えれば、なるほどcosmosかもしれない。あるいはカオスか。

春原 直人《Underneath》

こちらは春原直人(すのはら・なおと)さんの作品《Underneath》。春原さんは長野県に生まれ、現在は山形のアトリエSTUDIO CORE’LA(スタジオコアラ)を拠点に活動されてている山を主題に描く作家さん。わたしの義父も長野の安曇野を拠点に山を描く画家なので、勝手に親近感を覚える。義父はキャンヴァスを背負って山に登り、その場で絵を描く、超現場主義で、山と肉体と絵筆がつながっているような人だ。

春原さんは、登山というフィールドワークから得られた体感を重ね合わせて絵を描く。それは写生に止まらないということだよね。目に見える山の姿を描きながら、ご自身が体で感じ取った、触れ合った山の姿、形、呼吸……その時感じた想いや湧き上がった哲学が一緒に画面に重なり合っているんだ。使用するのは、墨・青墨・岩絵具。今回の新作も和紙に墨と岩絵具で描かれていた。黒で描きこまれた山肌は有象無象の気配を感じ、白く抜かれた場所は、とてつもなく鋭く力強い速さを感じた。近くによると黒がキラキラ輝いて、山の内側を覗いているかのような気持ちになった。

ああ、このまま飲み込まれてしまうんだ、わたし。
そんな畏怖の念すら沸き起こった。

春原直人さんinstagram: https://www.instagram.com/p/CEzRHD5lGia/
STUDIO CORE’LA instagram : https://www.instagram.com/p/CEzRHD5lGia/



くうぅ。パンチのある作品ばかりで、会場を後にする頃には心地の良い疲労感が、わたしの体を包んでいた。



まだ外は明るい。

ソメイヨシノの柔らかなピンクが日に透けて美しかった。
下から突き上げてくるような作家さんたちの創造力に出会った後に、眼前に広がる野生に触れると、なんだか美術館の内と外が互いに受容しあって、地続きなように感じた。

そういえば、上京したての頃、コムデギャルソンの日の丸シリーズのTシャツを着て、上野公園を歩いていたら、「日の丸ちゃん、似顔絵描くよ」って、道端の似顔絵師さんに声かけられたなあ。おっちゃん、元気かな。


展覧会情報

VOCA展2021 現代美術の展望─新しい平面の作家たち─

会期:2021年3月12日(金) 〜 30日(火) ※会期中無休
10:00 〜 17:00(最終入場閉館30分前まで)
会場:上野の森美術館(〒110-0007 東京都台東区上野公園 1-2)

※詳細は展覧会公式WEBページをご覧ください
https://www.ueno-mori.org/exhibitions/voca/2021/










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