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\本屋しゃんおすすめ展覧会:「美男におわす」展@埼玉県立近代美術館~2021年11月3日/

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落ち葉を踏みしめる、まだそんな風景には出会ったいないけれど、やんわりと色づいてる樹木がちらほら。
背伸びをして上を見上げると、青空と木々の隙間に吸い込まれそうで、なんとも気持ちがよい。

ここは埼玉県立近代美術館。
北浦和駅から歩いて数分のところ。

「美男におわす」展を見にやってまいりました。
絵画をはじめ、日本の視覚文化上に表現された「美少年」や「美青年」のイメージを追うことで人々が理想の男性像に何を求めてきたかを探ることを試みている展覧会です。なるほど「日本の視覚文化」とあるので、展示作品は浮世絵・日本画・彫刻・挿絵・マンガ・写真…とじつにさまざまで、「美男」というテーマでジャンルの壁をひょいと横断しています。いわゆるアートファンでなくても、自分の好きなジャンルを入口に他のジャンルへと興味関心を寄せることができるとても良い機会だなあと思います。

特に印象深かったのは、金巻芳俊さんの《空刻メメント・モリ》。パッと目に飛び込んできた瞬間にぞくぞくっと鳥肌が立ちました。久しぶりだなあ、この感覚。とにもかくにも、とても艶やかで漂うエロスがすごい。 色っぽさにやられました。 作品のタイトルにあるように「メメント・モリ」、つまり「死を思え」。いつか自分が死ぬことを忘れるなよという警句ですね。だから、死とつながっている作品なのだけど、いや、だからこそ生がたちあがってきて、生の色っぽさが際立っていたのかもしれません。そう、男性という性をこえて、生きとし生けるもの全ての生死に漂う艶と儚を感じました。

「美男におわす」展は美しい男性像がどのように描かれて受容されてきたかを学べるとともに、金巻さんの作品のように、美しい男性を愛でるにとどまらず、性を越えたところにある、生命の美やエロスすらも感じることができる人間の深淵に突き刺さる展覧会だと思います。 そして前述のとおり、ジャンル横断型だから、いろんな視覚文化の面白さにも出会うことができるから、普段、あまり美術館には行かないなという方にもとてもおすすめです。

常設展では「女性」に焦点を当てた作品を展示していたので、企画展とあわせてみると、より日本の視覚文化を様々な角度から考えることができますね。その点から、2014年度美連協大賞・奨励賞を受賞したトリメガ研究所さん企画の「美少女の美術史」展の図録もあわせて楽しむのもおすすめ。こちらも浮世絵、美人画、叙情画、漫画、アニメ、フィギュアなどなど、ジャンルを横断しながら、江戸時代の美人図から、「少女」が誕生した近代、そして「美少女」が日々メディアをにぎわす現代にいたるまでの様々な少女のイメージを紹介することで、日本人が少女という存在に何を求めてきたのを振り返る展覧会でした。ぜひ、「美男でおわす」展を発端に日本の視覚文化の変遷や、根幹となる美意識に触れてみてはいかがでしょうか。

展覧会情報

美男におわす
会期:2021年9月23日(木・祝) ~ 11月3日(水・祝)
会場:埼玉県立近代美術館()

※詳細は美術館WEBサイトをご覧ください
https://pref.spec.ed.jp/momas/handsome-men-they-are

巡回情報

会場:島根県立石見美術館
会期:2021年11月27日(土)~2022年1月24日(月)

http://www.grandtoit.jp/special/binan_ni_owasu

埼玉県立近代美術館のロッカーに宮島達男さんの作品がひっそりと。

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