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あふれる光はもう秋のようでーコレクション展2022-2:サマータイム・サマータイム@青森県立美術館~2022/10/2

投稿日:2022-09-12 更新日:

新幹線はやぶさ と こまち の連結部分が好き。
エメラルドグリーンと深紅のとんがった唇がくっついているの。せっかくくっついているんだけど、盛岡で切り離されるんだよね。サヨウナラ。がちゃんと切り離しが行われているであろう瞬間、はやぶさに乗っている私は、秋田に向かうこまちを頭の中で思い描きながら、道中の安全を祈る。お互い、いい旅にしよう、と。

はじめての青森は「美少女の美術史」展がきっかけだった。それから、ほぼ毎年、足を運んでいる。何故かと問われれば、青森県立美術館の展覧会がとても好きだから、会いたい人がいるから、海をぼーっと眺めている時間が大切だから、こんなところだろうか。8月も下旬の青森。新青森駅に降り立った瞬間、東京の8月下旬とは明らかに違った。カラッとした風が、肌を撫でる。半袖じゃ、夜が寒いかな…。

青森県立美術館の前に広がる原っぱが好き。

青い空と緑の原っぱと白い美術館の境界線がいい。ここを歩いていくと三内丸山遺跡にたどり着く。地続きだと考えると、歴史の連なりに感動を覚える。
「コレクション展2022-2:サマータイム・サマータイム」が一番の目的だったけど、「ミナ・ペルホネン/皆川明 つづく」を同館で見ることができたのは、嬉しい。

「ミナ・ペルホネン/皆川明 つづく」展 青森県立美術館 展示風景


「つづく」展を見た後に「サマータイム・サマータイム」展会場に向かった。最初の部屋は「青森と民芸」。青森県立郷土館所蔵のさしこ着がリズムよく展示されていた。かっこいい。「つづく」展で、皆川さんの刺繍のお仕事に感動して、さらにコレクション展の冒頭で、さしこの着物を見ることができるのは、しなやかな流れとなり、とてもスムーズにつながり、古からの東北の、そして日本の手仕事の美しさを深堀する体験ができた。コレクション展が企画展の、企画展がコレクション展の理解を高めるきっかけになっているキュレーション力に感動。民藝つながりで次の部屋は棟方志功。この部屋は、美少女の美術史展の時に、Mr.の≪Goin To A Go-go!!≫が展示されていて、しばし、立ちすくんだことを覚えているが、今回も然りだった。そこには棟方志功の大きな大きな木版画≪花矢の柵≫が展示されていた。アイヌの人がお祭りの際に一番はじめにささげる花矢がタイトルの由来。青森から、いのちを、文化を放っていくんだ!という強い想いが込められている絵。

その後、展示は青森県立美術館に寄託されたWコレクションによる草間彌生作品が並ぶ。最初期の「点」の作品から、アッサンブラージュやコラージュ作品、インスタレーションにいたるまで、なかなかお目見えしない貴重な作品をたくさん見ることができた。彼女のすさまじい芸術へのエネルギーが痛々しく伝わってきた。《海》と題された一枚の絵は、小作品ながら大海原だった。「好き」と思った。コンセプトに納得したり、作品の背景に唸ったりするより先に「好き」という気持ちが発動するのはとても嬉しいことだ。愛はとこしえ。


さらに、馬場のぼるの部屋、タイガー立石の陶彫の部屋、成田亨の部屋が続く。みんな青森ゆかりの作家さん。コレクション展全体が≪花矢の柵≫のようだ。


最後の部屋は「キッズ・リターンー『キッズ・アートワールドあおもり』」の頃。2000年と2001年に青森市で、2002年に三戸郡、2003年にむつ市で計4回開催された同館の開館以前のプレイベント「キッズ・アートワールドあおもり」のアーカイヴに触れることができた。会田誠、秋山祐徳太子、八谷和彦、成田亨…美術家のみならず、映画監督、料理研究家、ミュージシャン、絵本作家、ファッション・デザイナー、落語家、詩人などなどジャンルをびゅ~んと横断して、さまざまな表現者たちが招聘され、作品の展示だけでなく地域の子どもたちとの交流がたくさん行われていた。キッズの頃に、こんな面々と一緒に作品を作ったり、音楽を作ったり…最高にうらやましい!! きっと、このようなイベントに参加をすると、多様性を認めるとかさ、個性を尊重するとかさ、そんなことを言語化しなくても、自然と、他と多に出会うことができて、それらに対して、さらには私に対して優しい気持ちが生まれて、この世界の豊かなグラデーションに気づくことができるんだろうな。そして、私が私であることを、この世界に生まれてきたことを、喜ぶきっかけになるんだろうな。

コレクション展を目的に美術館に行く人は多くないかもしれない。はたまた、美術館に行っても企画展だけ見て帰るという人も少なくないかもしれない。だけど、実は、コレクション展にこそ美術館の方針と哲学が詰まっているし、その地域の文化にダイブすることができるから、住んでいる人も旅人も、コレクション展に触れることで、その場所をもっと知って、もっと楽しむことができるのではないだろうか。そんなことを改めて感じたのは「サマータイム・サマータイム」でたくさんの花矢が突き刺さってきたからだろう。

夕方。ホテルで長袖に着替えた。やはり半袖だとだんだん寒くなってきた。おすすめしていただいたコーヒーやさん「COFFEEMAN good」で待ち合わせまでの時間を過ごす。深煎りで苦めのコーヒーが好きな私たちは、それぞれに苦いコーヒーを注文。人懐っこい、眼鏡がよく似合う2人の店主。常連さんとの話が耳に入ってくる。「9月からボリビアでしばらくお店はお休みです」。ごちそうさまですを伝える時に、ボリビアに行くのですか? と尋ねると、コーヒー農園にいくのだそう。「お仕事のご縁で海を越え農園に行けるのは、幸せですね」と伝えると、満面の笑みで、「はい! とても嬉しいんです」と答えてくれた。ああ、だからここのコーヒーはこんなにおいしいのかと、2人の笑顔を見て合点がいった。

わたし、こんな食堂が好き。
夜、そんなお店につれてきてもらった。「ぎょうざの店 友楽」。店内は年季が入っていて、歴史と共に油がしみ込んでいる。地元の人で賑わっていた。焼きぎょうざ3人前と焼きそばと麻婆豆腐を注文。青森は焼きそばが有名というのははじめて知った。
彼は、しばらく前からSNSを断っていた。最近何してるんですか? みたいな近況報告から、ごはんの会がはじまる。わたしは、SNSで、日々、自分の居場所、行ったところ、食べたこと、仕事の報告などをのっけていると、発信したつもり、伝えたつもりになってしまっている。だけど、今こうして、自分にとって大切な彼にはそれは一切届いていないことを思い知ると、伝えるって何かなって思った。つながるって何だろうなって思った。会えなかった時間を埋めるように話す時間は、目の前にいながら、文通しているようでとても楽しかった。生きた会話がここにあった。


今度は東京出会えたらいいね、と言って別れる。


彼は引き続きSNSはしないだろう。どこかに存在している友だち、だ。次に会える日がいつになるかはわからないけれど、きっとその日も文通をたくさんできるんだろうなと思う。それまでに、手紙に書きたいことをたくさん覚えておかなくちゃと思う。


とてもよく晴れた青森の
あふれる光はすっかり秋で、
夜は長袖でちょうどよかった。

季節はまためぐりくるの。
憶えていましょう 今日のことを。


展覧会情報

コレクション展2022-2:サマータイム・サマータイム
会期:2022年7月9日(土)~10月2日(日)
会場:青森県立美術館(〒038-0021 青森市安田字近野185)
https://www.aomori-museum.jp/schedule/10462/

旅情報

COFFEEMAN good
青森県青森市古川1-17-1 1F
https://www.instagram.com/coffeemangood/?hl=ja

ぎょうざの店 友楽
青森県青森市古川2-4-10
https://tabelog.com/aomori/A0201/A020101/2004808/

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