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「たられば山手書店 往復書簡」
彗星読書倶楽部⇔本屋しゃん
企画:履歴書籍

投稿日:2022-09-08 更新日:

ある日、渋谷のとあるカフェ。履歴書籍さんの声がけにより、彗星読書倶楽部さん、本屋しゃんの3人が集まった。そこで、履歴書籍さんから「各山手線内駅に書店を出店する場合、一冊だけ選出するならどんな本を選出するか」という「問い」をいただいた。それぞれに注文したドリンクを飲みながら、席の時間がやってくるまで(そう、コロナ禍中、座席の使用時間が厳しく定められていた)、たくさん語り合った。そこで生まれた企画が彗星読書倶楽部さんと本屋しゃんの「たられば山手書店 往復書簡」だ。以下に、履歴書籍さんのステイトメントをご紹介したい。

各山手線内駅に書店を出店する場合、一冊だけ選出するならどんな本を選出するか。
また、出店場所はどこにするか。その場所、その本で、どのような人に、どのような効果・効能を起こしたいか。

 二○二二年春。上野駅から大型書店が消えた。駅構内に入らずに利用できる大型の本屋は上野駅周辺から一時的になくなりました。
 本屋が街から消える。想像だにしませんでした。実店舗を持つ以上、本を売る場所こそ重要になってくるでしょう。あえて紙の本である必要性。所有欲を満たすデバイスとしての本。本に出会うまでのストーリー。今の本屋には何が足りないのか。しかし、私の頭だけでは思考判断材料の限界でした。
 幸にして私の友人に二人の本屋さんがおります。二人に本屋を任せたらどうなるのかと聞いてみたところ。面白い話が次々に出てきました。この話をもっと詳しく時間をかけて聞きたい。できれば皆さんにお裾分けしたいと思い至りました。

 そこで二人に往復書簡形式で、以下の企画作成を手伝ってもらうことにしました。
各山手線内駅に書店を出店する場合、一冊だけ選出するならどんな本を選出するか。
また、出店場所はどこにするか。その場所、その本で、どのような人に、どのような効果・効能を起こしたいか。この往復書簡を通して二人の本の虫の智慧を皆さんに感じてもらいたいです。

「たられば山手書店 往復書簡」ステイトメント 文・履歴書籍

この文章を書いている時も、2人の往復書簡は続いていて、2022年11月20日に開催される「文学フリマ東京35」でお披露目される『履歴書籍』最新号に掲載される予定だ。その一端を一足早くお見せするべく、本屋しゃんが彗星読書倶楽部さんにはじめて送った手紙を公開する。彗星さんの「東京駅」からのバトンを受け取って、選んだ駅は「有楽町」。他の駅は、ぜひ、11月を楽しみにお待ちいただきたい。

彗星さんからの「東京駅」のお手紙はこちら。

本屋しゃんから彗星さんへ 「有楽町駅」

彗星さんへ

ごきげんよう。
お暑うございますが、お元気ですか。

なーんて、たまにはこんな口調で挨拶をしてみようかしらという気持ちになるのは、もしかしたらこのお手紙を送る相手が彗星さんだからかもしれません。きっと、この手紙が届くのは三度目のお目もじが叶った後ですね。そう、まだ三度しかお会いしておりませんのに、かねてよりの仲間と思っていただき光栄です。実は……わたしも同じ気持ちです。告白。

さてさて、「山手線の駅で書店を開き、そこで一冊だけ本を売るなら、どの本を選ぶか?」ですか。楽しくも難しいお題です。全く、誰の仕業でしょうか。東京駅のことを、たくさん学ばせていただきました。はじめて東京駅を訪れたのがいつかは覚えていないですが、わたしは退屈さを感じず「ここが東京か!」と、東京の概念と出会えたかのような高揚感を覚えたと記憶しています。丸の内ビルディングで彗星さんが、百閒さんの『東京日記』を売っていたら、さぞかし妖しいアウラが漂うだろうと、想像するだけで混乱しますよ。次の予定へと足早に急ぐお勤め人のみなさんのせわしない脚の隙間、「死角」に潜り込み、ねえ、このビルがある日突然姿を消したらどうします? とたくらんでいるような、そんな様子が目に浮かびます。素敵な1冊をありがとうございます。

彗星さんのお手紙をポケットにねじ込み、早速、山手線へ。内回りかしら、外回りかしらと悩みましたが、久しぶりに行きたい町があり、外回りに乗り込みました。私は、フリーの本屋になる前、銀座の本屋、その後、日比谷の図書館に勤めていました。偶然にも、近しいエリアでの転職。わたしには少し瀟洒すぎて、今でも歩くのに緊張してしまいますが、楽しさや苦しさ、仲間との思い出が蘇る思い出の場所です。

「有楽町」。東京から一駅、ここで降りましょう。そう、有楽町こそが今日、わたしが訪れたかった町です。ここは、銀座にも日比谷にも近い町。よく仕事帰りに立ち寄ったり、ただ通り過ぎたりしたものです。東京宝塚劇場に足を踏み入れたことはないですが、入り待ち出待ちの光景にはいつも驚きと感動をしていました。TOHOシネマズ日比谷には、今でもお世話になっています。最近だと、「ドライブ・マイ・カー」を観ました。その後に、「珈琲館 紅鹿舎」で「元祖ピザトースト」を頬張りながら映画の余韻に浸るお決まりのコース。ちなみに、紅鹿舎からも望むことができる、有楽町のシンボルのひとつでもある「煉瓦アーチ式高架橋」は、明治時代にベルリンの高架橋をモデルに職人たちの手仕事により作られたものなのだそうで、ベルリンに行くとそっくりな鉄道高架下の風景が広がっているのだとか。ひょんなことから、日独協会の方に教えていただきました。そっか、無性にビールが飲みたくなるのはそのせいですかね。


今日、まず立ち寄ったのは、東京交通会館です。山岳画家の義父がよくここで展覧会を開くゆかりの場所です。館には、北海道、新潟、大阪、長崎…などいろいろな物産館があります。わたしの故郷・新潟館で佐渡産の青のりを、teshの故郷・大阪館で「満月ポン」を購入し、小さな旅を楽しみました。さらに、有楽町散歩を続けると、東京国際フォーラムの広場で「大江戸骨董市」が開かれていました。真剣に何かを探している人、値段交渉をしている人、ただその雰囲気を味わっている人、全く興味を示さない人、眠たそうな店主…。わたしも、木製のアシカのような置物に惹かれましたが、ぐっとこらえました。蚤の市で「よくわからないもの」を買うことが好きですが、そのせいで我が家には「よくわからないもの」がよくわからないままに増えているので、時には我慢も大切です。

宝塚に映画館、ピザトースト、ドイツ式の高架橋、山岳画展、物産館、大江戸骨董市…。瀟洒な界隈の町と比べると、どこか雑多。文化施設、食、建築物、芸術品、骨董……統一感がなくて、歩くごとに真新しく、驚きがある場所。ここは、ヴンダーカンマ―みたい。

と思いめぐらせていると、「画賊」のことを思い出しました。日本には、海賊、山賊、烏賊(いや、これは違うか…)、と並んで「画賊」という「賊」がいるのです。画賊は、画家や張り子職人などなど、さまざまな人々が集まって2010年に結成された賊です。同人誌を作ったり、展覧会をしたりしている、文化的なみなさまです。賊ってつくけど、きっと怖くない、はず。そんな、画賊謹製の同人誌『画賊の日本みやげ』は、故郷なし、歴史なし、根なし草の郷土玩具大図鑑。張り子やこけし、土人形……「あるようで、ない。ないようで、ある」珍品奇品の写真と紹介文が、驚異の部屋よろしく、ずらりと並びます。例えば、「脳内旅行ペナント」。こちらは「日本初のタイムトラベラー車磯滋郎氏が核時代で買い求め、加算霊神社の参道で販売していたもの」らしい。この本で紹介されているみやげもんは、きっと骨董市でもなかなか手に入りませんね。装丁は、カラーブックスをリスペクトしているので、本好きには懐かしくそしてたまらないでしょう。有楽町や界隈には三省堂さんはじめ素敵な本屋さんが多数ありますが、きっとこの本は置いてありません。そうだ! こうしましょう。大江戸骨董市の時に、わたしも広場の隅っこに茣蓙を敷いて本屋さんを出店します。そこで売るのは『画賊の日本みやげ』、ただ一冊。「おっと、そこのお方、何かお探しですか? 特に何も? ただ見ているだけ? いいですね、その無目的感。たまには、編集された世界から抜け出して『よくわからなさ』を楽しんでみましょうよ」。



有楽町、なかなか、おもしろい町ではありませんか?
いかがでしょう。
四度目のお目もじは、有楽町で。
いつか、有楽町で会いましょう。



2022年8月7日 バナナの日 久しぶりに暑かった
本屋しゃん

履歴書籍
正規の履歴書には書けない、本当の履歴書を収集、エッセイ化する団体。 『決して不幸自慢でもゴシップでもない。まだ名前もついていない社会問題を扱った作品』。
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彗星読書倶楽部
「読む・書く・語る」を通して世界の解像度を上げることを目指す、読書家のためのウェブサイト。2018年3月に開設されて以来、読書や文学作品にまつわるブログ記事を公開しながら、定期的な読書会、講座イベントシリーズ『彗星教室』などのイベントを開催。作家であり、新しい読書の形を提案する「読書プロデューサー」である管理人の森大那が、書物の世界、読者の世界を、より面白く、より新しくするプロジェクトを発表している。
twitter: https://mobile.twitter.com/suiseibookclub
公式WEBサイト:https://suiseibookclub.com/

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『履歴書籍ー本屋さんの履歴書編』(PDF)、『履歴書籍』(紙)、ぜひご覧ください。
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