とてもいい天気だ。
こんな陽気の日に、はじめての町に出かけれらるなんて、とても嬉しい。少し遠出だから動きやすい服装にする。母から譲り受けた、タータンのパンツ。きっと母がわたしくらいの齢に履いていたものだろう。ウエストも丈感もぴったりくるのがおもしろい。
今日の目的地は「妙蓮寺」。
横浜市港北区にある街だ。
港北といえば、東京に住み始めたころIKEAによくいっていたなと思いだす。今でも、その時に買った、ハートに手が生えたぬいぐるみと暮らしている。
着。
電車の窓からどんな景色が見えるかな~と楽しみにしていたけれど、正直に告白しよう。爆睡してしまっていた。ふふふ。そんな日もあるさ。
目的地「妙蓮寺」での目的地は本屋「生活綴方」さん。
秋山あいさんの個展「スパイ手帳」作品展覧会 vol.03 を見にやってきました~。
あいさんの新しい作品集『スパイ手帳』の刊行を記念して開催された展覧会。 あいさんは、お出かけの時には必ず、お気に入りのペンが入った筆箱と筆箱の中にすっぽり入る小さな小さなノートを持ち歩います。そして、ファミレスやファストフード店、大衆酒場、バーなどで、気になってしまった人、そう、たまたまそこに居合わせた全く知らない人の言葉や会話、そのシーンを小さな小さなノートにスケッチしています。誰かの人生のほんのちょっとした一コマを盗み描く、まさにスパイ! 本書は、そんなスケッチをまとめた一冊。
妙蓮寺駅から生活綴方までは徒歩約2分。
嬉しい駅近!
ちょっといいなあと思ったのが、生活綴方のWEBサイト。どんなお店なのかしらと思って「お店のこと」タブをクリックしたら、そこにはたった一行「本屋・生活綴方は東急東横線、妙蓮寺駅徒歩2分にある本屋です。」と一言記されていた。コンセプトとか、開店までの道のりとかいろいろ書いてあるのかなと思ってクリックしたのだけど、いたって簡潔ですてき。
駅近なのに、なかなか生活綴方にたどり着かない。早く、あいさんの展覧会が見たいと思いつつ、商店街が味わい深く、あっち行ったりこっちに行ったり、立ち止まったり曲がったり、きょろきょろてくてくしていたせいだ。「へい、らっしゃい」なんていう威勢の良い声も似あいそうだけど、なんだかほどよい大きさで穏やかな町だなという印象を受けた。人と人、人とお店の距離感が良い。
と2分以上かけて、生活綴方に到着だい!
お店はドアなどなくオープンでとても入りやすい。八百屋さん、魚屋さんのような雰囲気。軒先にずらっとおいしそうな品物が並んでいる、あの光景。生活に欠かせないものを売っているお店の一つとしての本屋さん。
店内の壁一面にあいさんの作品がずらり!!
作品展覧会 vol.03とあるのでお気づきの方もいらっしゃると思いますが、そうなの、今回の展覧会はステキな会場を巡回しているの。巡回展の幕開けは京都の本屋・誠光社さん、次に恵比寿のギャラリー・山小屋さん、そして妙蓮寺の本屋・生活綴方さん。各地をスパイしに、いや逆に、その町の人たちにスパイされに? 旅をしているのです。わたしは、光栄なことに、あいさんとの出会いの場所である、山小屋さんでの展覧会の際にお店番を手伝わせていただきました。嬉しいな。山小屋さんは、本当に小屋という名前がぴったりで、白い壁のかわいらしいサイズの空間。そこでは、『スパイ手帳』の原画、町でみかけた本を読む人を描いた《本を読む人》シリーズ、そして金雲たちこめる町の風景画、さらに掛幅になった電柱の絵、と作品のシリーズごとにまとめる展示構成でした。
今回は、 『スパイ手帳』の原画とスパイ現場の写真を中心に、《本を読む人》シリーズ、金雲の町、掛幅電柱の絵がミックスされて、横長に展示されています。まるで、それは大きな大きな金雲のように見えて、自分がその雲の隙間から、引いたり近づいたり、いろんな焦点の当て方で人間の世界をのぞき見しているような気分。 素早く踊るような線、そして言葉や会話はカタカナで記されていて、ここに敏腕スパイの術を感じる。いかに素早く盗み聞きしたものを盗み描くのか。しかし、不思議だね、カタカナだと途端に暗号化されるようで、どういう意図で発せられた言葉なのか推理がはじまる。 全く知らない誰かの人生のほんのちょっとした一瞬なのに、その一言や会話から、その人の人生がどういうものなのか、壮大な妄想がはじまる。まるで、一冊の本の書きはじめにひかれて、ぐんぐんページをめくって読み進めていくみたい。
スパイ、覗き見というと犯してはいけない行為というネガティヴな印象ももしかしたらあるかもしれない。しかし、あいさんの「スパイ手帳」は他人の人生を決しておもしろおかしいネタにしているのではなく、 全く知らないけれど気になってしまうあの人の一コマを愛おしいものとして描いていることが伝わってくる。あいさんが、そんな人々を通じて、この世界を楽しんでいる、豊かな好奇心すら伝わってくる。愛に満ちた、そしてとてもやさしいスパイなのだ。
秋山あいスパイと一緒にこの世の中を一緒にスパイもできるし、鑑賞者は秋山あいのスパイ手帳をもとに、描かれている人についての推理をする探偵にもなれるのかもしれない。スパイに探偵、これは子どものころの夢が一気に叶ってしまうじゃないの。
本屋さんの壁での展示というのもいいですね。本屋さんはまだ見ぬ世界が、知の大海原が、好奇心を掻き立てる要因がギュッと詰まっている場所。気になる背表紙を見つけて開いてみると、中からその本の物語がぶわっと広がってくる。この感覚が、あいさんの作品とうまく呼応していると感じた。
『スパイ手帳』はとっても丁寧に作られた一冊。美しさとおもしろさが同居しています。装丁はクロス・箔押し!ん~豪華。150 x 100 mmというかわいいサイズはこっそりポケットに忍ばせて、覗き見気分を味わえるね。帯の裏側まで見逃せない仕様に。1ページに、小さな小さな「スパイ手帳」が見開きでそのままの大きさで掲載されているのだけど、きっとノートの小ささに驚くはず。本当に小さな小さなノートなの。手のひらとかスマートフォンでうまく隠せるサイズですね。敏腕スパイへの道のりは、良い道具という相棒をそろえることも大事だね。さらに、本書で見逃せないのは青森県立美術館 学芸員の工藤健志さんの寄稿。『源氏物語絵巻』や『解体新書』にはじまり、 アーティスト秋山あいの描く対象との距離感や視点、観察眼について鋭く評している。ぜひ、読んでいただきたい。
あいさんの作品を拝見した後は、お店の中をうろちょろ。
「畑見ます?」店番の方に声をかけていただき、裏庭にある畑を見せてもらった。
本屋さんで本を見ている時に「畑見ます?」はこれまたおもしろい会話だよね(笑)
畑、あった(笑)
本に土に、なんて手触りのある本屋さんなんだ。
さらに、生活綴方さんがオリジナルで作っているというカレンダー展も開催していたよ。ちょうど2022年のカレンダーを探していたので、購入。毎月違う作家さんの作品なの。1月はあいさんのトラ!元気いっぱいのトラで、このカレンダーを使えば来年も良い年になる予感。まあ、スケジュールはさまざまなアプリを駆使(駆使はできていないか)しているけれど、カレンダーをリビングにかけて、それをみながら今日あったこととか、今度の予定とかの話をするのが好きなんだ。だからカレンダー大切。
帰りは、来た時と違う道を通って、というかさらに道草をしながら、菊名まで歩いた。
途中におでんのタネやさんがあってね~~。そりゃあ、もういいお出汁のにおいが、ぷ~~~~んと
朝バナナから何も食べていないから、お腹が鳴ります。
妙蓮寺のホームセンターは全商品に黄色い値札が付いていてとても親切かつすごいインパクトでした。
公園の中を通り抜けようと、門をくぐると、おじいちゃんとおばあちゃんがベンチでまったりしていたり、家族が池にぷかぷか浮かぶ水鳥をみていたり、ひとり少年がかけて去って行ったり、さまざまな物語が漂っていた。
あいさんの作品を見た後だと、なんだかムフフという気持ちになる。
ああ、人生っておもしろい。
ふと空を見上げると、雲一つない青空。
みんなも同じ空を見ているのでしょうか。
展覧会情報
秋山あい「スパイ手帳」作品展覧会 vol.03
会期:2021年11月22日(月)〜12月14日(火)※水木定休
会場:本屋・生活綴方(〒222-0011 神奈川県 横浜市 菊名 1丁目-7-8)
※詳細は秋山あいさん、生活綴方さんのWEBサイトをご覧ください
ai akiyama https://ai-akiyama.com/spy-note
生活綴方 https://www.tsudurikata.life/s/stories/spytecho
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