わたしたちの南方熊楠 企画記事

【企画記事】手紙10:一條宣好さま「美しい普通の日々」中村翔子より(2020年3月30日)

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一條宣好さま

3月30日(月)昨日は雪!!でしたね!!季節外れだけど、雪国出身者として、雪ってちょっと嬉しかったりもします。

拝復。嗚呼、返信ができていないメールがたまっているわ・・・と、そっと受信トレイを見て見ぬふり(しちゃいけません!)・・・早く返事を書かなくちゃ、そんなプレッシャーが日々のしかかってきます。しかし、手紙はどうでしょうか。今日「が」、お返事を書く日だなという感覚が自然とやってきて、ペンをとります。ゆっくりと言葉を選び、ああでもない、こうでもない・・・と、書き進めます。そこに流れる時間はゆるやかで、連絡事項ではない、言葉を紡ぐことができます。ペンを持ち、紙にインクが染み込んでいく時間、便箋を折り、封筒にしまい、封をする。切手を貼って、ポストに入れる。あの人に届きますように、って。手紙をあの人に届けるまでに積み重なる、時間、それが手紙のよさかもしれません。返事を待つ側は、今日かしら、今日かしらと、ポストを覗いて、今日はきてないな、明日はくるかな、今日もこなかったな、今週はこなかったな、月曜日には届くかな・・・と寂しがってみる。って、こんな情緒に浸っていたら、南方さんに怒られちゃうのですね笑。


先の見えぬ不安に疲れる中、一條さんのお手紙に、心がふにゃと和らぐとともに、背筋が伸びました。やりきれんですが、わたしも、平常運転を心がけています。そうそう!SNSを通じて、みなさんの「普通の日々」や、こんな時だからこそこんなことしようよ!というポジティブな企画や、時に怒りや悲しみの言葉に触れられると、励まされます。よっし、わたしも頑張るぞ〜〜〜と。とりわけ、一條さんが毎朝、「開店」と「配達」を報告してくださるのがとても嬉しいです。普通の、だけど美しい1日が今日もはじまったんだな〜と感じられて良いスタートを切ることができます。ありがとうございます。

南方さんの最期は、何度聞いても感涙してしまいます。紫の花、楝の花ですよね。淡い紫の可憐な花に風がそよいで、花々がふわっと香りながら揺れる姿を想像すると、南方さんの強さとともに優しさまでもが脳裏をよぎります。南方さん、本当は楝の花のように柔らかい心の持ち主で、恥ずかしがり屋さんなんだけど、強い言葉と意志がそんな一面を包み込んでいたのかな。図鑑の完成が叶わずとも、人生という限られた時の中で、どれだけ優しく、力強く生きることができるか、わたしの人生の目標でもあるかもしれません。


ところで、わたしは、前々回に一條さんにいただいたお手紙の中のご質問にちゃんとお答えをしていませんでした。わたしにとっての南方熊楠の魅力ってなんですか?

もちろん、一言では到底言い表せませんし、わたしは、まだ、南方さんの魅力を語るだけの言葉を持ち合わせていないかもしれません。しかし、大学の授業で無意識のうちに出会っていた南方さんに、社会人になってから再会することになりました。その日が、わたしにとっての南方さんを魅力的だ!と感じた、第2の出会いです。再会の場は、意外かもしれないのですが、とある美術館でした。そんな南方さんとの再会については・・・長〜〜くなってしまいそうなので、また次のお手紙で!


嬉しいお知らせをありがとうございます!!とってもとっても貴重な資料を見ることができるのですね。このお手紙が届く頃には、すでに、その資料たちと対面した後でしょうか。どうだったのかな〜〜。喜々とされている一條さんの姿が目に浮かび、わたしも嬉しいです。愛読していた人について研究をし、ノートも執筆するなんて幸せですね!それも一條さんのまっすぐな「愛」によるものですね。楽しみにしています!


わたしも日々、たくさんの出会いがあり、幸せを噛み締めています。中でも「タゴール・ソングス」という映画を知ることができたのは大きいです。この出会いのおかげで、ベンガルの詩人 タゴールを知ことができ、彼の詩に触れる毎日です。不思議と、今の自分にぴったりの言葉にたくさん遭遇するのです。そうそう、なんと、タゴールと南方さんはほぼ同じ時代を生きていたのですよ!タゴールは1861年- 1941年、南方さんは1867年 – 1941年。タゴールは何度か日本に来ているし、どこかですれ違っていないかなあと妄想してしまいます。こうして、またどんどんと繋がりゆくご縁に、不思議さを感じるとともに、嬉しさでいっぱいです。

世界中の人々に、穏やかな日々がも早く戻ってきますように。
美しい普通の日々を送れますように。


中村翔子

【往復書簡メンバープロフィール】

一條宣好(いちじょう・のぶよし)
敷島書房店主、郷土史研究家。
1972年山梨生まれ。小書店を営む両親のもとで手伝いをしながら成長。幼少時に体験した民話絵本の読み聞かせで昔話に興味を持ち、学生時代は民俗学を専攻。卒業後は都内での書店勤務を経て、2008年故郷へ戻り店を受け継ぐ。山梨郷土研究会、南方熊楠研究会などに所属。書店経営のかたわら郷土史や南方熊楠に関する研究、執筆を行っている。読んで書いて考えて、明日へ向かって生きていきたいと願う。ボブ・ディランを愛聴。https://twitter.com/jack1972frost

本屋しゃん似顔絵

中村翔子(なかむら・しょうこ)
本屋しゃん/フリーランス企画家

1987年新潟生まれ。「本好きとアート好きと落語好きって繋がれると思うの」。そんな思いを軸に、さまざまな文化や好きを「つなぐ」企画や選書をしかける。書店と図書館でイベント企画・アートコンシェルジュ・広報を経て2019年春に「本屋しゃん」宣言。千葉市美術館 ミュージアムショップ BATICAの本棚担当、季刊誌『tattva』トリメガ研究所連載担当、谷中の旅館 澤の屋でのアートプロジェクト企画、落語会の企画など、ジャンルを越えて奮闘中。下北沢のBOOKSHOP TRAVELLRとECで「本屋しゃんの本屋さん」運営中。新潟出身、落語好き、バナナが大好き。https://twitter.com/shokoootake


【2人をつないだ本】

『街灯りとしての本屋―11書店に聞く、お店のはじめ方・つづけ方』
著:田中佳祐
構成:竹田信哉
出版社:雷鳥社
http://www.raichosha.co.jp/bcitylight/index

※この往復書簡は2020年2月1日からメディアプラットフォーム「note」で連載していましたが、2023年1月18日より本屋しゃんのほーむぺーじ「企画記事」に移転しました。よろしくお願い致します。

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