わたしたちの南方熊楠 企画記事

【企画記事】手紙5:中村翔子さまへ「本屋の息子、『本屋風情』をきっかけにして南方熊楠と出会う、の巻」一條宣好より(2020年2月16日)

投稿日:2023-03-12 更新日:

中村翔子さま
2月16日(日)きょうの山梨は冷たい雨です。ここ数日は季節はずれの暖か
さだったので、寒さが身にしみます。けれど暦の上では立春を過ぎ、梅の花
も咲き始めました。きっともう少しの辛抱ですね。


先日は「荒木優太×田村義也 南方熊楠に学ぶ、勝手にはじめる研究活。」開催と司会、お疲れさまでした。前回のお便りにお加減がすぐれないとあり、当日もつらそうにお見受けしました。しかし、私がお返事を書くのにモタモタしているうちにお元気になられたことと思います。今年は数日おきに寒さと暖かさがやってくるので、体調管理が難しいですよね。どうぞお身体大切になさってください。

それから当日の忘れ物を配送してくださり、本当にありがとうございました。山梨へ帰る特急の中で荷物がないことに気づき、ずいぶんと狼狽してしまいました。今後の資料に使おうと思って購入した本もあったので、感謝感謝です!


さて、前後しますが、2月5日付の心ときめくお便りをありがとうございま
す。文通の経験をお持ちなのですね!そういえば小中学生の頃(1980年代くらい)は学習雑誌などの巻末に文通の相手を募集する内容のページがありました。記憶ではすべて女子の投稿だったように思います。「ペンフレンド」「ペンパル」なんていう言葉もふつうに通用していましたね。私は子供のころ手紙を書くのが苦手でした。特に親類への礼状書きが嫌いで、コミック『ピーナッツ』のサリーだったかルーシーだったかが「お礼状なんてもの、いったい誰が発明したの!?」と言っているのを読んで激しく同感したくらいです。

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        「完全版ピーナッツ全集」(河出書房新社)パンフレット。

しかし、雑誌でかいまみる文通には、なんだか憧れる気持ちを持っていました。自分勝手ですね(笑)。そんな私がいまは中村さんと「往復書簡」と題して「文通」めいたことをしている…子供の時に憧れた世界に入り込むことができたような、ちょっと不思議な感じがします。


中村さんの南方熊楠との出会い方、強烈ですね!しかしながら、講義で教授が提示されたセクソロジー探究者としての熊楠の姿も、とうぜん彼の一部であることに間違いありません。自然科学にも結びつくことですし。個人的には、熊楠を面白い人物だと紹介してくれていたという点にほっこりしました。その教授に感謝です。中村さんに熊楠へ関心を持つきっかけを与えてくれたわけで、その講義がなければ私たちの出会いも、往復書簡も、もしかしたら成立していなかったかもしれないわけですから。


さて、ご質問にお答えしましょう。南方熊楠を知ったのは、岡茂雄という出版人の回想録『本屋風情』を手にしたことがきっかけでした。中学1年の冬だったと思います。本屋のひとり息子である私は、いつものように新入荷の書籍が入った段ボール箱を開封し検品する手伝いをしていました。その箱の中に中公文庫版の『本屋風情』があったのです。

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岡茂雄『本屋風情』。左は中公文庫版、右は角川ソフィア文庫版(入手可能)。

本屋の子だったせいもあり「本」とか「本屋」と題名についている書物をみつけると、必ず手に取って内容を確認する習性がありました。「風情」が読めなかったので、亡父に聞いて教えてもらったことが懐かしく思い出されます。開いて目次を見ると民俗学者の柳田国男にまつわる章がいくつもあります。幼い頃に母から民話の絵本を読み聞かされて育ち、昔話などの言い伝えが大好きだったので、小学生の頃に『日本の伝説』、『遠野物語』は読んでいました。どちらも児童向けにルビを増やしたフェア文庫版があり、当時読んでいた小学生は少なくなかったろうと思います。そんな補助線があり、柳田の名前は知っていたので「面白そうだなあ」と思いながら更に目次を見ていると、彼の名前があったのです!「南方熊楠と柳田国男」、「南方熊楠翁の自叙伝」、「『南方熊楠全集』に辿りつくまで」…。「ナンポウ、ナンポウ何だろう…?」本文をちら見してみてもルビが見つかりません(実は14ページにあるのですが、その時は見つからなかった)。名前が読めないこともあり、ナンポウなんとかさんは大きな謎とともに立ちはだかるような印象。ただ、柳田国男の先輩格のえらい人らしい、著者の岡さんも大変敬意を持っているらしいということはなんとなく感じられました。それが南方熊楠を知った最初です。

『街灯りとしての本屋』(雷鳥社)の取材で、私は南方熊楠を「大読書家」として認識し憧れを抱いていることを熱く語り、田中佳祐さんが的確に記述してくれました。世の中の熊楠ファンには意外かもしれませんが、私にとって熊楠は「本」や「読書」と切っても切れない親和性を持った存在です。『本屋風情』の中から現れて、たくさん本のことを教えてくれたひと。家業を継いで本屋になった今、熊楠への想いはますます高まっていると自覚しています。熊楠の著作を店に置くことがなんとも誇らしく、護られているようにも感じるのです。

中村さんからの質問にお答えしているうちに、自分がどれほど熊楠のことが好きか再確認できた気がします。ありがとうございます!
中村さんにとって、熊楠の最も魅力的に感じられる点はどんなところですか?ぜひ教えてください。


天気予報では明日は晴れとのことです。また新しい一週間が始まります。お互い元気で過ごしましょう。引き続きよろしくお願いします。
                             

                              一條宣好

【往復書簡メンバープロフィール】

一條宣好(いちじょう・のぶよし)
敷島書房店主、郷土史研究家。
1972年山梨生まれ。小書店を営む両親のもとで手伝いをしながら成長。幼少時に体験した民話絵本の読み聞かせで昔話に興味を持ち、学生時代は民俗学を専攻。卒業後は都内での書店勤務を経て、2008年故郷へ戻り店を受け継ぐ。山梨郷土研究会、南方熊楠研究会などに所属。書店経営のかたわら郷土史や南方熊楠に関する研究、執筆を行っている。読んで書いて考えて、明日へ向かって生きていきたいと願う。ボブ・ディランを愛聴。https://twitter.com/jack1972frost

本屋しゃん似顔絵

中村翔子(なかむら・しょうこ)
本屋しゃん/フリーランス企画家

1987年新潟生まれ。「本好きとアート好きと落語好きって繋がれると思うの」。そんな思いを軸に、さまざまな文化や好きを「つなぐ」企画や選書をしかける。書店と図書館でイベント企画・アートコンシェルジュ・広報を経て2019年春に「本屋しゃん」宣言。千葉市美術館 ミュージアムショップ BATICAの本棚担当、季刊誌『tattva』トリメガ研究所連載担当、谷中の旅館 澤の屋でのアートプロジェクト企画、落語会の企画など、ジャンルを越えて奮闘中。下北沢のBOOKSHOP TRAVELLRとECで「本屋しゃんの本屋さん」運営中。新潟出身、落語好き、バナナが大好き。https://twitter.com/shokoootake


【2人をつないだ本】

『街灯りとしての本屋―11書店に聞く、お店のはじめ方・つづけ方』
著:田中佳祐
構成:竹田信哉
出版社:雷鳥社
http://www.raichosha.co.jp/bcitylight/index

※この往復書簡は2020年2月1日からメディアプラットフォーム「note」で連載していましたが、2023年1月18日より本屋しゃんのほーむぺーじ「企画記事」に移転しました。よろしくお願い致します。

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