一條宣好さま
2020年6月2日(火)じめっとしております。
そろりそろりと、こんにちは!
一條さんに「なにィ!? 4月も半ばをすぎた?!」と、お手紙をいただいてですね、今、こうしてわたしが筆をとっているのが、6月2日です。「なにィ!? 6月がはじまったって?!」というわけです。外出自粛! STAY HOME! で、たっぷり時間ができると思いきや、やはり24時間は変わらずですね(汗)
そんなSTAY HOMEの期間中、敷島書房さんの毎朝の配達&たんぽぽツイートに癒されていました。きっと、日々の配達を通じて、お客様と丁寧なコミュニケーションを取られている一条さんだからこそ、コロナ禍によって変わったこと、変わっていないことなど、さまざまに感じられているのかなと思います。
話題にあげていただいた映画「タゴール・ソングス」は、コロナ禍で予定通りの劇場公開が延期されていましたが、いよいよ6月1日からポレポレ東中野で公開スタートしました! 以前の日常とは違った日常での映画鑑賞は、上映される側も鑑賞する側も、いささかそわそわするかもしれません。しかし、やはり劇場に出向き、スクリーンからの光、音の振動、生の魔法にかかることが大切だと思います。
先日、のびにのびた髪を切りに美容室に行ってきました! ショートカットなので、月に1回ペースで髪を切っていたのですが、2ヶ月以上の月日が空いての久方ぶりの美容室の気持ちよさに驚きました!こんなにシャンプーをしてもらうって気持ちよかったっけ?! にはじまり、人の手で実際に頭に、肌に触れてもらうことがこんなにあたたかくて、気持ちの良いことだったのねと、しみじみと感じました。美容師さんに感謝を思いながら、「手当て」とはこのことか、と、なんだか合点がいきました。こればっかりは、やはりオンライン上では実現しえぬ幸福感だな〜と感動する帰路、映画であっても、本であっても、美術であっても、この世界には、やはり、美容室で私が体感した「生」の幸せや楽しみが存在する! と思いました。
ということで、近々、「タゴール・ソングス」を見に、劇場に行こうと思います。
そして、タゴールさんは、南方さんとニアミスしていたのですね! びっくり! 2人が同時代に生きて、タゴールが来日したこともあることを知り、もしかしたら、どこかで会ってたり……しないよね〜ととても淡い期待、いや妄想を膨らませていたのですが、まさか、平沢哲雄氏のサイン帳面で文字として出会っていたのですね。本当に、現存しているのなら、その帳面をぜひ、拝見したいですねえ。文字と文字の邂逅でも、感動するだろうなあ。
タゴールからボブ・ディランへ繋がりゆくお手紙をとても興味深く拝読しました。というか論文レベルのお手紙に恐縮しきりです。ぜひ、どこかで発表してほしい〜と思いました。ボブ・ディランが「伝統につらなる存在」としての自分を見せているという点に気づかれることが一條さんならではと思いました。わたしは正直、あまり彼の音楽に親しくしてこなかったので、彼について詳しくありません。しかし、一條さんのお手紙から、ボブ・ディランという人が、常に音楽の深淵に根ざす曲と詩を紡いでいたことがよくわかりました。と、同時に、自分自身も何かの連なりの中にいる一人であること、日々淡々と日常を過ごしていると、自分はさまざまな事象から切り離された点であるように思ってしまいがちだけれど、本当は、歴史や民族、文化など長い長い線の中に佇んでいて、この連なりを次の世代に贈ることが大切なんだなと感じました。
それにしても、一條さんがボブ・ディラン好きとは存じていましたが、愛がビシビシ伝わってきました^^もしかしたら、タゴールの歌のようにみんなが口ずさむことができる! という歌は、日本ではなかなかないかもしれません。しかし、一條さんにとってボブ・ディランがそうであるように、きっと誰もの中に、大切な言葉や、詩、歌、音楽があるんだよなと。映画「タゴール・ソングス」は、そりゃあもちろん、タゴールの詩や歌の美しさに感動したり、勇気をもらったり、ベンガルの人々の生の力に元気をもらったりできる映画です。しかし、タゴールやベンガルの人々との出会いの先に、自分にとって大切な言葉や音楽との改めての出会いのきっかけにもなると感じました。わたしは、映画を見て「あなたの風が帆になびいた」というタゴールソングがとても好きになりながらも、ベンガルの人々のそばに常にタゴールソングがあることが羨ましいなあとも思いました。しかし、そのあとに、ふと、自分にとってずっと大切な歌が頭をよぎりました。忌野清志郎さんの「すべてはAlright」です。ああ、そうか、ベンガルの人々にタゴールソングがあるように、わたしにはこの歌がある、と、わたしにとっての大切な言葉と歌を思い出させてくれました。その意味で、「タゴール ・ソングス」は、自分自身を見つめ直す機会をも与えてくれる、たくさんのプレゼントをはらんだ映画ですね。
南方さんに惹かれたのは、言葉より前にまずは「絵」でした。なんて、この人が描くきのこは飾らずに、素朴で、感触があるのだろうと、心惹かれました。あとあと、熊楠の絵はそんなにうまくはないよ、という熊楠研究者の方のお話を度々聞いて、なるほど研究者の視点からは色々物申したい点があるのかと理解しつつ、わたしはもっぱら南方さんの絵を美術を見るときと同じ目と同じ気持ちで見ているなあということに気づきました。
絵を見ることも、わたしにとっては言葉に触れたり、歌を聴くのと同じように、さまざまな感情を体操させてくれる大切な存在です。
いよいよ関東も梅雨入りしそうですね。わたしの地元・新潟では、そろそろ十全なすが出てくる時期です。小さい頃から、十全なすの浅漬けが大好きで、夏のはじまりを感じます^^新潟の枝豆も美味ですよ〜〜〜。
緊急事態宣言が解除されたものの、気を引き締めていないとですね。
なんだか、月日の流れがよくわからなくなってきているのですが、
月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人なり。
わたしも旅人として、この時代の旅を陽気に楽しみたいと改めて思う今日この頃です。
どうかお身体大切に、日々、健やかにお過ごしください。
中村翔子
追伸
ONLINE ブックフェア 映画「タゴール・ソングス」誕生記念ー 100年後に、この本を心を込めて読む、あなたは誰ですか?では、選書とコメントをありがとうございました!!
【往復書簡メンバープロフィール】
一條宣好(いちじょう・のぶよし)
敷島書房店主、郷土史研究家。
1972年山梨生まれ。小書店を営む両親のもとで手伝いをしながら成長。幼少時に体験した民話絵本の読み聞かせで昔話に興味を持ち、学生時代は民俗学を専攻。卒業後は都内での書店勤務を経て、2008年故郷へ戻り店を受け継ぐ。山梨郷土研究会、南方熊楠研究会などに所属。書店経営のかたわら郷土史や南方熊楠に関する研究、執筆を行っている。読んで書いて考えて、明日へ向かって生きていきたいと願う。ボブ・ディランを愛聴。https://twitter.com/jack1972frost
中村翔子(なかむら・しょうこ)
本屋しゃん/フリーランス企画家
1987年新潟生まれ。「本好きとアート好きと落語好きって繋がれると思うの」。そんな思いを軸に、さまざまな文化や好きを「つなぐ」企画や選書をしかける。書店と図書館でイベント企画・アートコンシェルジュ・広報を経て2019年春に「本屋しゃん」宣言。千葉市美術館 ミュージアムショップ BATICAの本棚担当、季刊誌『tattva』トリメガ研究所連載担当、谷中の旅館 澤の屋でのアートプロジェクト企画、落語会の企画など、ジャンルを越えて奮闘中。下北沢のBOOKSHOP TRAVELLRとECで「本屋しゃんの本屋さん」運営中。新潟出身、落語好き、バナナが大好き。https://twitter.com/shokoootake
【2人をつないだ本】
『街灯りとしての本屋―11書店に聞く、お店のはじめ方・つづけ方』
著:田中佳祐
構成:竹田信哉
出版社:雷鳥社
http://www.raichosha.co.jp/bcitylight/index
※この往復書簡は2020年2月1日からメディアプラットフォーム「note」で連載していましたが、2023年1月18日より本屋しゃんのほーむぺーじ「企画記事」に移転しました。よろしくお願い致します。