春夏秋冬、年に4回しか出現しない「茶屋しゃんりん」。
ですが、いやはや光陰矢の如しで、あっという間に秋がやって参りました。
2024年の秋はまだまだ暑くて、残暑をずっと引きずっているみたい。
だけど、日が暮れるのは日に日に早くなっていて、夕暮れにちらりと目を向けると、秋らしい哀愁がしっかり滲んでいる。こんな秋の日のお燗酒はおいしいんだろうなと思いながら、相棒のキャリーケースをゴロゴロ引きずって会場のアーリ―バード・アクロスへ向かいます。
会場にはそこかしこに秋らしい生け花があたたかい彩を添えていました。ああ、ここにも秋がやってきているしみじみしながら、女将の粋なセンスにうっとり。
会場準備を進めていると、こんにちはーと元気いっぱいに会場入りしてくれたのは、秋のゲストの春風亭弁橋さん。いつも通りの笑顔と大きな声で入ってきてくださるものだから会場のスイッチがオンになり、一気に落語会の空気に。野良ちりんの料理の良い香りも立ちこみ、茶屋しゃんりんがいよいよ狼煙をあげはじめてきました。
茶屋しゃんりんは、出演者の方にあーしてほしいこーしてほしいというリクエストはあまりしません。本番以外の過ごし方も、それぞれが居心地の良い過ごし方をしていただくのが良いなと考えているので、楽屋にいていただいても、外を散歩していただいても、すべて、いとをかし。
弁橋さんは会場入りしてから一向に楽屋に行かれる様子もなく、外を歩かれるでもなく…我々と一緒に歓談して過ごしてくださいました。そうこうしているうちに、いざ、開場!! お客様がいらっしゃっても…弁橋さんはそのまま会場にいらっしゃって、お客様と歓談をはじめられました。あ、あ、新しいスタイル!! 開演までの1時間、ずーーーっとお客様と話ていました。お客様もお酒片手に、野良ちりんの酒菜を食べながら、弁橋さんやお客様同士の会話を楽しんでいらっしゃっていて、どんどん緊張がほぐれていっているようで嬉しい限り。今回の料理は、弁橋さんの故郷・山梨の郷土料理、そして弁橋さんの好物である鶏肉から野良ちりんが着想を得て作った品々です。一口食べては山梨の食や文化についてと、料理とともに話が弾む弾む。そりゃあ、1時間はあっという間か。
そんな開演前の光景を見ながら、いろいろな空気の作り方があるなあと学ばせていただいた次第。
ちなみに、当日飛び入りの方も多く、大入りとなりました。心から感謝です。
さてさて、飲んで食べて話て、だいぶ心も体も会場の空気に慣れ親しまれてきたであろう頃に、いよいよ弁橋さんに落語を口演していただきます。
一席目は『小粒』。いつも小柄なことをいじられる男がご隠居さんのもとに教えを請いにいくお噺。弁橋さんがご自身が小柄であることになぞらえているのですが、いやはや高座の上では大きくて豪快な弁橋さん。ハイノートな小柄な男の声とご隠居さんの落ち着いた趣のある声、友だちのあしらう雰囲気、仁王さまの渋い声…それぞれの登場人物の声色と節回しが良い具合に重なり合い、心地よいグルーヴを生み出していました。弁橋さんというと元気!ですが、元気一辺倒ではなく、引くところは引いて、渋くいくところは渋くえぐってくるので、メリハリがついて、お客様が最後までスリリングに楽しまれていたように感じます。弁橋さんの噺し方はとても聴きやすく、お客様ひとりひとりに落語を届けたい! という想いがひしひしと伝わってきました。
そうそう、みなさまお気づきでした? この日のお献立「山梨郷土料理 鶏もつ煮込み ちりん風」にピリリと山椒が効いていたのです。そうです、『小粒』の中でも「山椒」は大切なワードでしたよね! 弁橋さんの粋な演目のセレクトで落語と料理が呼応して、茶屋しゃんりんでしか味わえない時間になりました。
仲入りもお酒に料理にたくさんご注文いただき、『小粒』の余韻漂う中、さらに心も体もいい感じにふわふわに。
もう一席は『替り目』。飲んだくれの亭主がこの日もぐでんぐでんになって帰宅し「もっと飲ませろ」と女房にくだを巻く。一方の女房は文句を言いながらも酒の支度をしてくれる……まさに、お酒にちなんだ茶屋しゃんりんにぴったりな一席を選んでくださいました。
弁橋さんの飲んだくれの亭主は、顔を真っ赤にほてらせて、いい気持だあと体をゆらゆら揺らしながら酩酊している様子がまざまざと目に浮かぶよう。まだ飲みたい~という姿は飽きれもするが、どこか愛おしくも味があり、会場も亭主の酩酊ぶりに巻き込まれているようで、あちらでもこちらでも、手元のお酒をクイッと飲む方が。心も胃袋も刺激される落語会、ここにありです。
酩酊状態の亭主とあきれながらも世話する女房のそれぞれの視点から、夫婦だからこそ見せられる姿、長年連れ添っているからこその恥じらいを含んだ愛情をじんわりにじませてくるのはさすがでした。
人様にご迷惑をおかけする噺でもありますが、何だかんだで夫婦っていいなあなんて、ちょっとホロリとさせるのは、弁橋さんの噺ぶりが熱燗のように骨の髄まで沁みてくるからでしょう。憎いなあ。弁橋さんが年を重ねるとともにさらに苔むす夫婦の味を醸してくるんだろうなと感動と共にこれからの熟し方も楽しみになった一席でした。
終演後は、みんなで乾杯。
まだまだ続く歓談の時間。まだまだ飲むぞ! の空気。
落語のこと、お酒のこと、何でもない会話がころころと弾みます。
落語が終わった後も思い思いに時間をお過ごしいただけることがとても嬉しく、開場時よりお客様の顔がほぐれて笑顔がたくさん咲いていることが何よりの幸せです。
茶屋しゃんりんの夜はこうして更けていきました。
感謝の気持ちと、楽しい一週間がはじまりますようにという気持ちでお客様をおひとりおひとりお見送りしていると、「今度は友だちと一緒に来たいです」「おいしかったです! 楽しかったです!」「また弁橋さん呼んでください」「応援したい落語家さんが増えました」
なんていろいろなあたたかい言葉を逆にかけていただき、ああ、わたしも良い一週間が過ごせるぞ!と、やや顔を赤らめながら背筋を伸ばします。
ご来場いただいたみなさま
春風亭弁橋さん
アーリーバード・アクロスのみなさま
手伝ってくれたみなさま
広報にお力添えいただいたみなさま
おいしい食材とおいしいお酒
そして、野良ちりん!
関わってくださったすべての方に心から感謝をお伝えします。
また、みなさまの月曜日の夜を、一週間のはじまりを彩れるようにがんばります。
次は「茶屋しゃんりん 冬」でお会いしましょう!!
茶屋しゃんりん 秋 詳細
落語 日本酒 酒菜「茶屋 しゃんりん」秋
第二夜 :春風亭弁橋
日程:2024年10月21日(月)
時間:19:00開場、20:00開演
※公演は21:30頃終演予定。多少前後する可能性があります
場所:アーリーバード・アクロス(〒170-0003 東京都豊島区駒込1丁目40−14)
木戸銭:2500円 ※前菜付き!
※事前にチケットをご購入ください
ドリンク+フード:キャッシュオン 500円~
https://honyashan.com/welcome/shanrin02-shunputeibenkyo/