東京都庭園美術館のアプローチは最高に気持ちがいい。
8月。
夏盛りのある日。
正門をくぐり、ふと上を向くと青々とした木々の葉の隙間を太陽の光が通り抜け、生きとし生けるものを祝福するかのようにキラキラと輝いていました。
ちょうどそんな季節にカセットプラントの制作をはじめました。
カセットプラントは美術家・山口啓介さんの代表作のひとつ。
カセットケースに樹脂を流しこみ、そこにドライフラワーを封入し、ガラス面や透明な什器など、光を通す場所に設置します。絵画のようでもあり、立体作品でもあり、インスタレーションでもあり、設置される場所とつどつど響き合うプロジェクトのようでもある作品です。
はじめは、そんなカセットプラントの「素」をもくもくと作りました。
日々、届く色とりどり、形とりどりなお花たちの美しさをとどめるべくドライフラワーを作ります。作品の「素」の誕生です。
その後、完成したドライフラワーをひとつひとつカセットケースに入れます。カセットケースというセルに封入されたドライフラワーは、まさに作品の「細胞」のよう。
そんな細胞たちを、リズミカルに美術館のガラス面や、アクリル什器に貼っていきます。バラバラだった細胞がくっついていき、肉体が生まれ、ついに「作品」の完成です。いや、誕生と言ったほうが良いかもしれません。
10月。
秋がはじまり、もうすっかり寒くなり、扇風機を回しながら「素」を作っていた頃がすでに遠い昔のよう。
カセットプラントに外交が差し込むと、美術館の内と外が溶け合うかのようで、あちらとこちらの境界線がなくなるような感覚に陥ります。床に落ちる影も美しく、ゆらゆらキラキラする植物たちの影は、美術館が呼吸してるみたい。天気、時間、場所によって違う表情をみせてくれるカセットプラントは、作品をさまざまなな角度から楽しめるとともに、地球ともたくさんの接し方ができる。
いよいよ今日、10月17日から「生命の庭 ー8人の現代作家が見つけた小宇宙」が開幕です。
カセットプラントは東京都庭園美術館に溶け込み、アール・デコ様式の邸宅にあたかもずっとそこにあったかのように、邸宅と一緒に呼吸をしながら、みなさんをお待ちしています。
山口啓介さんの大きな大きなドローイング、それとは対照的に3.11後から毎日書き続けているとても緻密な「震災後ノート」、そして大地から生命力を吸い上げたような版画作品もどうぞお見逃しなく。画面越しでは体感し得ない、絵画の厚みや、凹み、てかり、勢い……に感動を隠せません。
今回の展覧会は、8名の現代作家さんが参加されています。みなさんの作品どのように、東京都庭園美術館という空間に応え、溶け合っているか、ぜひ体験してください。本屋しゃんは、何周も何周もしてしまいました。その都度、新しい発見があるから。「生命の庭 ー8人の現代作家が見つけた小宇宙」をよろしくお願いします!
展覧会情報
生命の庭 −8人の現代作家が見つけた小宇宙
2020/10/17(土)– 2021/1/12(火)
処:東京都庭園美術館
https://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/201017-210112_GardenOfLife.html
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