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甲斐荘楠音の全貌―絵画、演劇、映画を越境する個性@京都国立近代美術館~2023/4/9

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京都へ。
なんていい天気なんだろう。旅先で天気に恵まれると自然と気持ちが軽やかになる。
冬の青空に赤い南天の実が映える。自分が巻いているお気に入りの真っ赤なマフラーと南天の実の色がお揃いのようでちょっぴり嬉しかった。

三条駅から京都国立近代美術館まで、小さいスーツケースをカラコロひっぱりながら歩いた。
旅慣れてきたなと思う。以前は、あれもこれも持っていかないと不安で、荷物が多すぎていた。しかし、インドへの旅をきっかけに、旅行ではなく旅することが好きになり、身軽こそ旅を楽しむ秘訣の大きな要因だと気づくことができてから、荷物をいかに少なくするかを考えるを楽しんでいたりする。

川沿いをぼんやり歩き、橋を渡り、やってきたのは京都国立近代美術館。
開館60周年記念 甲斐荘楠音の全貌―絵画、演劇、映画を越境する個性」
あたしが京都入りした前日に開幕をした。ラッキー。


甲斐荘楠音(1894-1978)は好きな画家だが、数年前に東京で開催された展覧会の影響もあってか「あやしい絵」というフィルターを通してでしか見ることができていない自分がいた。今回の展覧会は甲斐荘楠音の全貌であり、越境する個性に触れることができるとあって、自分が外したかった色眼鏡をとって、彼の深淵をしっかり観て学びたいと思った。

本展は「序章:描く人」「第1章:こだわる人」「第2章:演じる人」「第3章:越境する人」「第4章:数奇な人」で構成されている。甲斐荘楠音という「人」を形成するさまざまな人に出会うことができる。甲斐荘楠音はひとりだけど、ひとりの甲斐荘楠音になるには、さまざまな甲斐荘楠音が集まっているのだ。

「序章:描く人」から、大変に贅沢な展示で驚いた。代表作も出し惜しみされることなく、ばんばん並び、序章だけで甲斐荘楠音展としてまとまっているように感じたが、なるほど「描く人」は甲斐荘楠音の一面であって、描く人が、その後に続く各章の人たちにどのようにつながっていくのか期待が膨らんだ。ああ、それにしても、絵一枚一枚から体温と匂いが立ちこめて、生彩を放っている。ドキドキ、クラクラしてくる。

第1章、第2章、第3章と会場を進む。作品だけでなく、スケッチや写真、甲斐荘氏が所蔵していた浮世絵や浮世絵の関する本、裸体に関する本……など関連資料がたくさん展示されていて嬉しいとともにたくさんの発見があった。作品と同等に資料が展示されているようだった。そこに甲乙はない。作品の「周辺」の物に触れることはとても楽しい。その人の頭の中を覗いているようだし、作品への理解がより深まる。解説を読んだり聴いたりするのはもちろんだけど、モノが語ってくれることもたくさんあるし、言葉を介在しない分、モノと作品の関係性への想像力が膨らむ。

中でも、スクラップブックに感動した。甲斐荘がどんな写真やヴィジュアル、記事に興味を持っていたのか、彼の好奇心の矛先と世界の切り取り方を垣間見ることができる。切り抜いた写真や記事の写真の貼り方のバランスから几帳面さと、センスも感じた。つい先日、東京国立近代美術館で「大竹伸朗」展 で大竹氏のスクラップブック作品にたくさん触れたところだったから、スクラップブックについても思いを巡らせることができた。甲斐荘氏のそれは資料であり、切り貼りされた1枚1枚に役割と意味が生じ、この世界の美しさを抽出しているように感じたけれど、大竹氏のそれは作品で、貼られている1つ1つが重要なのではなく、貼られている者同士(それまで無関係だった同士)の関係性と溶け合い方のおもしろさの圧倒的で過剰な地層として立ち上がっていると感じている。抽出ではなく重なり。スクラップブックに対する想いや使い方は違うけれど、カットアップして、リミックスして再構築する行為は2人にとってかかすことができない「この世界にすでにあるもの」との対話なのかもしれないな。

甲斐荘氏による舞台や映画の仕事を紹介する章では、はじめて知る甲斐荘の「人」に出会うことができた。こんなに演劇人・映画人として活躍されていたことは露知らず、さまざまなジャンルをまさに「越境」していたんだなと思う反面、演劇・舞台は、甲斐荘氏の画家という「人」にも通ずる、そう、氏の表現人生において大切な土台だったように感じた。さまざまな人を感じながら、それを貫く軸が見えてきたところで、最後に「第4章:数奇な人」の部屋に入る。


ここでは、1915〜76年と長い年月をかけて描かれた《虹のかけ橋(七妍)》と未完の《畜生塚》が、スケッチとともに並ぶ。《畜生塚》は、豊臣秀吉が養子である秀次を自害させ、妻妾子など約30人を処刑し秀次と共に埋めたという史実によるもので、肉肉しく厚みのある裸体はダ・ヴィンチやミケランジェロの表現を見て描いたといわれているようです。あまりの迫力にしばし絵の前に立ち尽くしてしまった。何とも痛ましいテーマだ。これに挑む甲斐荘氏の苦しみすら感じたが、苦悩や痛み、悲しみ、醜さ……も含めた美を描こうとする強さも感じずにはいられなかった。


甲斐荘氏は、さまざまなジャンルを越境しても、人間、そして美に対して深い深い探求心と表現することへの強烈な意欲を燃やし続けたことが痛いほど伝わってきた。越境しても変わらないもの、だ。いつのまにか、わたしも「あやしい」色眼鏡をとることができていたようで、妖艶さに眩暈しながらも、とても冷静に俯瞰しながら、さまざまな甲斐荘楠音を知ることができた。これはやはり、資料の紹介、展示方法によるところが大きいかもしれないなと、たくさんの「作品になるまでの軌跡」を見せてくれたことに感謝した。

この後、努力クラブの舞台「世界対僕」を見に行く。
舞台を愛した甲斐荘の触れた後の観劇とは、偶然にも良い流れ・物語ができたなあと、旅中の副産物を喜ぶ。


随分とじっくり展覧会を見たので、時計に目を落とすとなかなかいい時間になっていた。
舞台に遅刻しないように小走りして劇場に向かう。
相変わらず南天の実がぬらぬらと燃えていた。
《幻覚(踊る女)》のように。

追伸。
「甲斐荘楠音の全貌」展図録。 表紙が《春》なのが良い。とても色っぽいし、春色が優しくて、女性の肌香の柔らかすら伝わってくる。

展覧会情報

甲斐荘楠音の全貌―絵画、演劇、映画を越境する個性
京都国立近代美術館
2023年2月11日(土・祝)~4月9日(日)
※詳細は美術館の公式サイトをご覧ください
https://www.momak.go.jp/Japanese/exhibitionarchive/2022/452.html

※2023年7月1日(土)~8月27日(日)東京ステーションギャラリー に巡回

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