倉敷の蟲文庫さんを後にして、昨日出会ったおばあちゃんたちに教えてもらった地元民御用達のうどん&そば屋「志乃屋」さんで腹ごしらえ。
さほど広くない店内は、ご近所で働いていると思しきおじさまがたで賑やか。みんな「うどん定食」をたのむから、思わず「わたしもおんなじの」と注文。常連さんになると、お好みのうどんを定食にしてもらっているようだ。「きつねの定食ね〜」「わかめの定食!」と、こんな感じ。新参者のわたしは、シンプルなかけうどん。この日は「たこめし」がセットでさらに「みかん」もついてきた!食後にはコーヒーを出してくれた。これで600円。優しい味で心も体もあったまりました。近所に住んでいたら、常連さんの注文の方法をマスターしたいです笑。
お腹がいっぱーいになったところで、倉敷を後にして岡山に向かいます。
新幹線は岡山発。
ありがとう倉敷。ありがとう倉敷で出会ったみんな。
まだ時間があります。
かねてより気になっていた「スロウな本屋」さんに行くことにしました。
名前がステキ。まさに「スロウな時間」を過ごすことができるんだろうな。今、まさにそんな気分。スロウな時間を過ごしたい。じょんのびしたい。
スロウな本屋さんの公式WEBサイトでのアクセス情報が、充実かつおもしろいの。岡山駅からスロウな本屋さんへは歩くと15分〜20分くらいらしいんだけど、「わかりやすい直線ルート」「ちょっと複雑、ゆっくり愉しいルート」の2つの案内が載っています。
早くつくことが最善のように感じてしまいがちだけど、お店に行くまでの道をゆっくりのんびり冒険するのもいいなあって思わせてくれました。無駄を省くんだ!効率よく生きるんだ!という流れに乗ってしまいがちな日々だけど、無駄だと思われちゃいそうな時間とか、非効率的だと掃き捨てられてしまいそうな時間を愛おしく感じる、そんなきっかけを、道案内の段階からすでにプレゼントしてもらいました。
バスや、路面電車という手もあるみたいなので、ご自身の好きな手段&ご都合で選んでくださいね。
わたしは「ちょっと複雑、ゆっくり愉しいルート」を選びました。
方向音痴なわたしなので、道案内があろうと、Googleマップを使っても99%迷子になります。今回も、方向音痴力を発揮して「ちょっと複雑」は「結構複雑」になってしまっていました。しかし、その結果、知らない街の知らない道と景色を存分に楽しめたので、良し。
「スロウな本屋」さんにつきました!閑静な住宅街に溶け込みながらも、「むむむ?このお家からは何やら楽しそうな気配を感じるぞ」と思わず、のぞいてみたくなる空気を建物そのものがまとっています。
実は、スロウな本屋さんは店主さんが、自ら、戦前から残る木造長屋を改装して誕生した本屋さんなの。すごい!!
ここで、本屋さん誕生までを読むことができますよ。
↓
http://slowbooks.jp/make.html
お掃除にはじまり、ワークショップなどをしながら楽しく手作りされたことがよくわかります。こりゃあ、「むむむ?!」な楽しくてあたたかい気配を醸すお店になりますね。
ガラガラガラッと入口の引き戸を開けます。
「お邪魔しま〜す」
玄関で靴を脱ぎ、いざ、お店の中へ。
この時点で、友だちのお家を訪ねた気持ちになり、ふっと心が和らぎます。
しかも、店内は畳敷き。ん〜この畳のすべすべな歩き心地は懐かしくもあり、新鮮さもある。足の裏が刺激されて、気持ちいい。
スロウな本屋さんは、店主さんが選んだ「絵本」と「暮らしの本」が揃うお店です。入るとすぐに絵本の棚が!!!ここは、もともとは押入れだったみたい。小さい頃、押入れを秘密基地にして遊んだり、親と喧嘩すると隠れてみたりと、特別な場所だったなあ。押入れはいろんな場所にも変身してくれた。そんな押入れに、絵本の棚があるなんて、絵本と一緒に子どもの頃のワクワクとドキドキと秘密がぎゅっと詰まったみたいで、最高ね。下の部分には、小さなお客様が潜り込めるスペースもあった。嗚呼、わたしももう少し小さかったら躊躇することなく、ここに潜り込んで絵本を読みあさるのに。
端から絵本を拝見する。
手書きで添えられたカテゴリーのラベル。
1冊1冊手に取るたびに、なんだか嬉しくてため息が出ちゃう。
「ああ……良い本。うぅ……この本も素敵」
何度も何度も絵本の棚の前を行ったり来たり。
そこで、出会った運命の1冊がこちら。
『むかしむかし』谷川俊太郎・詩/片山健・絵(イースト・プレス)
「はんばーぐはなかったけれどうんちをした」
帯の言葉にドキッとして、この言葉を確かめたくてページを開いたの。
「むかしむかしぼくがいた」
こんなワンシーンから絵本ははじまる。
むかしむかしのぼくのお話。
おもちゃもないし、本もないし、はんばーぐもない、むかーしむかし。
だけど、今と同じ太陽がギラギラしていて、今と同じ風が吹いて、おかしいときは笑った。
わたしは「はじめ人間ギャートルズ」のエンディング曲「やつらの足音のバラード」が好きなの。
♪なんにもない大地にただ風が吹いてた
この曲に触れると、不思議と悩みが吹き飛ばされるのですが、この絵本もまた同じ気持ちにさせてくれました。日々のあれこれ、膨大な情報、不意に押し寄せてくる不安……そんな現代において、何にもない大地にただ風が吹いたところを想像する、おもちゃも本もないけど、遊んだり考えていた頃を想像することって、とても大切かもしれません。自分の「人間」としての原点を、むかしむかしの自分を想像することで、ふと蘇り、むかしむかしの自分の生命力が、いまを生きる自分の活力に繋がっていくように感じます。
「これくださいな」
絵本の他にも、奥にある暮らしの本の部屋もぐるりと拝見してから、『むかしむかし』をレジに持っていった。「いい絵本ですよね」と、自然と会話が生まれる。
『むかしむかし』を通じての、店主さんとのスロウな時間。
世界の様子が、わたしたちの生活が一変した2020年。オンラインの恩恵を受けながらも、それとは逆に自分自身も自然の一部であることを思い出される時間になったような気もすると。これまで聞こえていなかった鳥の声、虫の動き、風の音。それが、最近になって急に聞こえるようになってきた。
今、むかしむかしのぼくに出会うことで、変わりゆく中の変わらなさに気づき、
はじめ人間の感覚で力強く生き抜けるかもしれないな。
そろそろ新幹線に乗らなくちゃ。
おみやげはきびだんご?
旅の終わりはいつもちょっと寂しい。
また、来るね。
旅中に出会った、みなみなさまに感謝。
お店情報
スロウな本屋
処:岡山県岡山市北区南方2−9−7
※詳細はお店の公式WEBサイトをご覧ください。
志乃屋
処:岡山県倉敷市阿知2-6-23
※食べログ
https://tabelog.com/okayama/A3302/A330201/33013010/
勝手に選書
誰に頼まれたわけでもないけれど、この旅と記事から想像を膨らませて選書しました。
『サピエンス日本上陸 3万年前の大航海』(海部陽介、講談社、2020)
『身ぶりと言葉』(アンドレ ルロワ=グーラン、筑摩書房、2012)
『京大総長、ゴリラから生き方を学ぶ』(山極寿一、朝日新聞出版、2020)
『根源乃手/根源乃(亡露ノ)手、…… 』(吉増剛造、響文社、2016)
『木をかこう』(ブルーノ・ムナーリ、至光社、1982)
『それでも僕たちは「濃厚接触」を続ける!』(広瀬浩二郎、小さ子社、2020)