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「みんなの分のジュース買ってきて。何を買ってくるかは、あなたのセンスで!」と言われると困ってしまう。
無難に水、お茶の二種類では能がない感じがするし、水とお茶に加えコーヒー系と炭酸を織り交ぜれば、及第点となるだろうがキラリと光るセンスは入らない。
こういう時もし、がぶ飲みミルクコーヒーかチェリオの二種類しか買ってこなかったら、私に買い出しを頼んだ先輩師匠方はどんな顔をなさるだろうか。
子どもの誕生日が近い。
まだ正確にはっきりと「どこどこのお店のこれが欲しい」と言えない我が子のために
おもちゃを買い出しにいく心持ちは、楽屋でジュースを頼まれたときのそれに近い。
どんなおもちゃがハマるのか。それを先回りし思考を巡らせ我が子に買い与える。こういうと、すこし大袈裟か。
こどものおもちゃに特化したお店、“なんとかザラス“に行けば
所狭しと並ぶのは対象年齢別に棚分けされた様々ななおもちゃの数々。
鎮座するのは主だって【アンパンマン】、【ミッキー】、【ドラえもん】。
この三つのキャラクターの数の多さに驚かされる。
彼らは長い間、今もなお子ども市場に堂々と君臨し続ける選ばれし勝者だ。
例え、そのキャラクターに思い入れはなくとも、その中のどれかから選ぶことが必然となる。
「ゼニガメ、ヒトカゲ、フシギダネどれにする?」
少年時代、当時流行していたポケットモンスターで旅のはじまりにだしぬけに尋ねてきた
オーキド博士の傲慢さを、疑う余地なく選択していた幼心をおもいだす。
ミッキー、アンパンマン、ドラえもん。。。。
妙に巨人大鵬卵焼きのような響きだ。
三種の神器ならぬ三種の人気である。
我が子もご多聞に漏れずアンパンマンの虜で、一方ディズニーのキャラクターにも夢中だ。
家にはすでにたくさんのキャラクターの人形が同居している。アンパンマンの横にはドラえもん。そこにキティちゃんにメルちゃん。テレビでは見られない豪華な並び。まるで「笑っていいとも!」最終回のような、なんでもござれの絢爛さだ。
画面の中ではバイキンマンとだけ戦うアンパンマンも、舞台が俗世間の一般家庭の中ではアンパンマンもまた敵はバイキンマンのみに限られない。
競合他社、異種格闘技の荒波の渦の中へ放り込まれるわけである。
アンパンマンも楽じゃない。社会に出るとはこういう事か。
『アンパンマーチ』は有名な主題歌だ。
―「そうだ!恐れないで生きるよろこび、愛と勇気だけがともだちさ」―
まるで広沢虎造の「馬鹿は死ななきゃ治らない」の如く。
だれもが聴いたことのある名調子、名台詞だ。
この歌を聴いて育ってきた私もいまでは、世間で言ういい年のおじさんだ。
年を取るとあらためて受け取る感性が、また変わってくるもので、
近頃はアンパンマンたいそうの歌詞にはいろいろなことを気づかされる。
紹介すると、
(一部抜粋)
―「もし、自信を無くしてくじけそうになったら、いいことだけいいことだけ思い出せ」―
長いこと大人をやっていれば、仕事においても時に感触に「違和感」を感じるときもある。
寄席でマクラを振る、噺に入る、オチを言う…「―うけないー」。
「あれー? こんな日もあるか」とあくる日も、
寄席でマクラを振る、噺に入る、オチを言う…「―うけないー」。
こんな時はそう、アンパンマン体操の歌詞を自分に言い聞かせるのだ。
「思い出すんだ、いいことだけ。いいことだけを。」
「思い出せ俺! 道灌で客席を爆笑の渦へと叩き込んだ前座の頃のあの黒門亭の高座を」。
話をアンパンマンたいそうに戻そう。
そしてダメ押しするようにこの曲のサビの歌詞では
「アンパンマンは君さ、元気を出して。アンパンマンは君さ」とこうくる。
この歌詞を聴くたび僕はこう受け取る。
「人生の主役は誰なのか?よく考えてみようね」と。
そしてかくも柔和で丸顔温厚なアンパンマンの言っていること、言いたいことそれは、
「お前が(人生の)舵を取れー」とひたすら叫び続けるあの長渕剛の『Captain of the ship』と同義ではないかと。
ましてや今は一億総活躍社会の世の中。とーちゃんも、かーちゃんも、にーちゃんもねーちゃんも必死に働いてる日本。
誰かのために働くのも大事。
でも誰かのためだけに生かされるな。
加齢による感性の変化はそれだけにとどまらない。
悪役を悪役として一緒くたに区別することが難しくなったように思う。
きっと、バイキンマンにもおそらくアンパンマンをやっつけなくてはならないなにかしらの事情があるのだ。
考えてみれば、ドキンちゃんだって、カビるんるんだって今もバイキンマンの元を離れない。この離職率の高い現代で。
よほど福利厚生がしっかりしているとか、週休6日制なのかもしれない、まったくもって立派な経営手腕としか言いようがない。
バイキンマンは周りからみれば、ばいきんということになるのかもしれない
しかし、バイキンマンにとってばいきんは同胞だ。
アラフォーのおじさんは思う。
「社会の価値観に負けるなバイキンマン」
「なんどアンパンマンにやられても放送日には必ず復活してくるその根性!いいぞ!」
正義の反対は悪ではなく、もう一つの正義だという。
Where is love?
がんばれアンパンマン。 そして負けるなバイキンマン。
(文・柳家あお馬)
【プロフィール】
柳家あお馬 (やなぎや あおば)
1989年神奈川県出身。より多くの人に落語を楽しんでいただきたいという想いから、寄席や落語会に精力的に出演中。失敗しがちな落語の住人に、人間的な愛嬌を感じさせてくれる存在として、魅力を感じている。そんな「落語の可笑しみ、登場人物の愛らしさを素直に表現できるような噺家」を目指している。
WEBサイト: https://yanagiya-aoba.com/
X: https://twitter.com/yanagiyaaoba
次回のTRiP
「TRiP ー落語×浮世絵ー」
第8回 テーマ:バズる
開催日 2026年3月20日(金・祝)
時間 18:00開場、18:30開演〜20:30終演予定
※18:00~開演時間までOPENING ACT 渡邉晃によるJAZZピアノ
会場 仲町の家 (足立区千住仲町29-1)
アクセス 北千住駅より徒歩約10分
参加費 2,800円(税込) ※事前決済
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【TRiPの人たちとは】
「TRiP」は、柳家あお馬(落語家)、渡邉晃(太田記念美術館 学芸員)、本屋しゃんの3人が作る「落語と浮世絵が出会う落語会」の名前であり、チーム名です。それぞれ活動するフィールドは違えど、「落語と浮世絵」をジャンルを横断することでもっと楽しんでほしい! そして、双方の魅力を広げたい! という想いのもとチームを結成しました。「TRiPの人たち」では、あお馬、晃、本屋しゃんが一体どんな人なのか、普段はどんなことをしているのかなど、メンバー三人のそれぞれの活動やなんでもない日常をお届けしていきます。TRiPをもっと楽しんでいただくための、ふりかけのような、そんなブログです。

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