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段ボールが空になるまで、腕の痛さはサヨナラ

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「筋トレはしていいですか? 走っていいですか?」
「え? いや、この後に? (苦笑)」

2021年秋。一回目のワクチン接種をした後に、医師に「何か質問はありますか?」とたずねられたので、素直な質問をぶつけた。すると、医師の表情は「君君君、本気で言っているのかね」という苦笑モードに。あ、いつもとても優しいステキな先生ですよ。止めはしないさ、できるのであれば、ということで病院を後にした。

数時間後、医師が苦笑していた理由を身をもって理解する。それどころではなかった。無理、まず腕が痛い、起き上がれないし。みるみる熱が上がるし。二回目も同様に副反応にうなされた。まあ、翌日には腕の痛さも引いて、熱も下がってケロッとしていた。

半年が経ち、三回目の接種日がやってきた。
「何か質問はありますか」と医師。「いえ、特にありません」とわたし。
「一回目も、二回目も、結構お辛かったんですよね。今日は安静にしていてくださいね」と後ろから看護師さん。
三回目の後も熱が出て一日うなされるんだろうなとは覚悟していた。しかし、腕の痛さはすぐにやってきたけれど、熱は微熱程度で落ちついている。お、こんなもんですむのかなと、一寸安心をした。が、しかーし、ここでどんでん返しである。そんな安心も束の間、接種した翌日の夜からみるみる熱が上がり、頭痛と吐き気に襲われる。時差でやってきた副反応。

翌朝になっても熱が下がる気配は一向になく、一日、全く使い物にならなかったわたし。予定していた仕事も見送らせることになってしまい、 いろいろな方にご迷惑をおかけしてしまい、心から申しわけなかった。改めてお詫び申し上げます。一日、安静にしていたら夜には微熱程度に下がった。が、しかーし(何回目の、「が、しかし」だよ)、腕の痛さは一向に収まらない。むしろ、一回目、二回目の時よりも腕が痛い。

三回目のワクチン接種からすでに3日経つ。昨日できなかった仕事をガシガシしなくてはいけない。穴をあけてしまった現場に急ぐ。「ブックフェア」を作る仕事だ。本に囲まれた仕事というと、以下にも文系な印象を持つ方が多いかもしれないけれど、これがですね、大変な力仕事なのですよ! 本は結構重たい。きっと、その中にたくさんの知恵や知識や、文化が詰まっている分、重いんだよ。書店に勤めていたころは、しょっちゅう、二の腕が筋肉痛になるし、腰は痛くなるし、いつのまにできたんだこのあざ?! な日々でした。だんだん経験を積むと、腹筋に力を入れるといい具合に力が入ることを自分なりに編み出してから、あまり体は壊さなくなった。大好きな本のため、お客様のため、著者のため、お店のため、文化のためと想えば、筋肉痛も痣もどうでもよかったけれど。

腹筋を意識すればいい具合に力が入る術を習得していたとしても、痛いものは痛い。この腕の痛さで、本持てるかなと、いささか心配していた。

現場につく。心配してくれるスタッフのみなさま。優しさに涙。
と感動に浸っている時間もないので、早速作業に取り掛かる。目の前には届いた本がずらりと並んでいる。自分が選んだ本と対面する一瞬は、いつでも嬉しく幸せだ。一冊一冊手に取って、なぜその本を選んだのかを改めて思い起こす。

この本はここへ、この本の隣はこの本。
ああ、いい本だな。
この本もいい本だね。
んーやはり、このブロックはこっちに固めた方が良い文脈ができるかな。


と心の中は、毎回こんな具合である。
だいたいフェアや棚の形を思い描いていても、いざ、現場で本を並べてみると、なんだかしっくりこない空気が漂ったりする。だから、試行錯誤を繰り返し、心地よい場所を探すのだ。本にとっても、お客様にとっても。

段ボールは空っぽに。届いた本をすべて出し切った。
閉店も近かったので現場を後にする。

ふと気づくと、腕の痛さはどこへやらだった。本を触った瞬間に、腕の痛さが消えてなくなったようだった。
寝食忘れて夢中になるように、腕の痛さがふっとぶ仕事なんだなと思った。それくらい 好きなんだな、この仕事が。 没頭。



帰路、やっぱり腕は痛いのだけど、幸せだった。

たくさんに人に届きますように。

こうしてできあがったブックフェアが4月13日~7月3日に開催される千葉市美術館の展覧会「生誕100年 清水九兵衞/六兵衞」(https://www.ccma-net.jp/exhibitions/special/22-4-13-7-3-2/)の関連フェア。

フェアの紹介はまた改めて。




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