なるほど。
これが噂の心臓破りの坂ね。
送迎車に乗り込み、「あぁ、助かった」と心の中でつぶやく。
だけど、ちょっと、急な坂をはあはあと息を切らしながら登るのも良かったかもな、とも思った。
たどり着いたのは、地主麻衣子さんと山口啓介さんの「新・今日の作家展2020 再生の空間 New “Artists Today” Exhibition 2020 Space of Rebirth」。
以前、おすすめの展覧会よ!と紹介した展覧会。
メインバナーに使用されている作品は、地主麻衣子さんの新作の映像作品《Lip Wrap / Air Hug / Energy Exchange》の一コマ。”身体的な接触をすることが難しい状況で、それでも親密さを求める気持ち”について、地主さんご自身が書いた詩、その朗読、そしてシンプルなドローイングのアニメーションよる新作の像作品。きゅうってなった。これはコロナ禍以前に書いていた詩なのだとか。
誰かに会いたい、誰かに包まれたい、触れたい、触れて欲しい。だけど、セックスとかそういうんじゃなくて、それほどヘビーでもなく、もっと安全で、肉体感のない関係がいい。あなたに触れたい、触れられたいけど、ここからこっちには入ってこないでという、きっとわがままなディスタンス欲。触れあわないで、このエネルギーをとけ合わすことってできるかしら。あるよね、そういう日。コロナとか関係なく。コロナで加速したのかな、そんな切ない気持ち。
その後、地下1階に降りると、山口啓介さんの部屋。
まず出迎えるのは《地球・爆》シリーズ。10名の作家による「戦争画」だ。
階段をトントントンっと降りると、《白虎リヴァイアサン》がのぞくの。この瞬間に、空気がピリっと変わる。
会場に足を踏み込むと、一気に手触りのある世界へと引き込まれるた。
地主さんの作品を通じてきゅうとなった心に、ずどんと突き刺さる山口さんのエネルギー。奥に進むと、山口さんが3.11の3日後から毎日つけている《震災後ノート》も展示されている。余白なくびっしりと書き敷き詰められた文字、そしてそこに差し込まれるように描かれた小さな絵画。わたしは南方熊楠の「抜書」を想起する。
年代も、表現方法も違う2人だけど、2人の作品を同時に体験することで、コロナ禍中において、触れたいけど触れられない日々、募る切ない気持ち、そんな中で忘れられない手触りの世界と肉体感と体温を感じることができた。それは、新しい価値観や生き方を試行錯誤しながら、人間の根源が再生されたようだった。
帰りは、心臓破りの坂も楽なもんで、フラフラっと散歩しながら桜木町の駅まで戻った。少しでも考え事をしたい時は、自らの足を動かしたほうが良い。
さあ、北千住に帰ろう。ふと空を見上げると、ジンライムのようなお月さまが。
展覧会情報
新・今日の作家展2020 再生の空間
地主麻衣子 JINUSHI Maiko
山口啓介 YAMAGUCHI Keisuke
会期:2020年9月22日[火・祝]-10月11日[日] 10:00~18:00(入場は17:30まで)
処:横浜市民ギャラリー 展示室1、B1 入場無料 会期中無休
※詳細はギャラリーWEBサイトをご覧ください