小指こと小林紗織さんの「score drawing」をはじめて知ったときのドキドキはずっと続いている。五感が全方位に解き放たれた。
音楽にあわせて絵を描いたり
絵にあわせて音楽を奏でたり
音と絵の邂逅はいつだって心踊らせてくれる。
だけど、小林さんの「score drawing」はそれとはちょっと違う。
音と絵の邂逅というより、翻訳というのに近いかもしれないな、と思う。
小林さんは、音楽を聴くと、色彩や形、たまに映像が浮かぶという。そんな情景が、五線譜の上に描かれ、踊る。音楽が小指さんによって、色や形を得て、翻訳されるんだ。
音楽がこんな風に聴こえるんだ、いや、見えるのか、いや感じるのか?!
と、驚きとともに、羨ましささえ覚えた。
それ以上に、小林さんが描いた色彩や形とともに、音がこちらに押し寄せてきて、わたしの体を貫いた。これは絵画作品を鑑賞しているのか、音楽を聴いているのか。観てもいるし、聴いてもいる。観る!聴く!という別々の感覚が溶け合った。こんな体験はじめてで、ぐいぐい引き込まれていったの。音を観ることができるなんて、嬉しい。
そんな、小林さんの個展が神田のTETOKAで開催されると聞きつけ、夕暮れ時にえっさほいさと伺った。TETOKAをはじめて訪れたのは、確か、中ザワヒデキさんと辛酸なめ子さんの2人展「n次元」だったなあ。
そうそう、これこれ。って!!2015年!!ついこのあいだのような気がしたけど、もう5年前かあ(しみじみ)。
日が短くなり、あたりは日が落ちはじめて、うっすら暗くなっていた。
16:00。
TETOKAの灯りがなんだか暖かった。
今回の個展のテーマは「TRIP」。
小指さん(漫画を描かれる際は小指さん)のこれまでの旅を記録した漫画「旅の本」のお披露目。
壁には、漫画の原画がズラリ。
端から読み出したらとまらない!!
す、すごい。良い意味で爽やかさが一切感じられない「旅」たち(笑)。
なんて言えばいいんだろう、足の踏み場のない感。
うん、そうだ、足の踏み場のない旅。
最高。
おこがましいかもしれないけれど、わたしの一人旅にちょっと似ている。ガイドブックに依らない、いや、ガイドブックには乗らない、いやいやガイドブックからはこぼれ落ちる旅。だけどたまらなく、愛おしくて、おかしくて、ちょっと危なくて、生きてる!!と実感できる旅、だ。
旅先では、謎が多いほど、情報が少なすぎる、あるいは情報過多にふりきってる場所ほど気になっちゃうんだよなあ。
会場奥には、score drawingもありました。
ああ、この感覚。音と色と形がわたしに向かって突き刺さる。
しばし、立ちつくす。
映画「うたのはじまり」の絵字幕も拝見することができた。
樹脂作品も!
ここらで、もう一度立ち尽くす。
いただいたお茶をクイっと飲みほす。
熱いお茶が喉元を過ぎると、ふと我に帰る。
わたしはTRIPしていたようだ。
すっかり、外は真っ暗。
さっきよりも、冷たい空気。
早速、会場で購入した『旅の本』を帰りの電車の中で読む。
「無防備なままに出かけられる日」が、またやってくる日を待ち望みながら。
展覧会情報
小指 / 小林紗織「TRIP」
会期:12月5日(土)〜12月20日(日)
営業時間:16:00〜22:00
処:手と花|TETOKA(東京都千代田区神田司町2-16-8)
勝手に選書。
誰に頼まれたわけでもなく、本展からイメージを膨らませて選書をしました。
『貧困旅行記』(つげ義春、新潮社、1995)
『死ぬまでに行きたい海』(岸本佐和子、スイッチパブリッシング、2020)
ZINE『光るレトロ』(吉田和夏)