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企画展「WHO ARE WE 観察と発見の生物学ー国立科学博物館収蔵庫コレクション | Vol.01 哺乳類」 @国立科学博物館~2022/9/25

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「私たちは 誰なのか」
そんな問いかけからはじまった。


みーんみーん。
蝉が夏をかき混ぜている上野公園。
一歩歩くだけで、暑いのなんのって。木の下で、思い思いに休んでいる人たちがいる。葉っぱの影がそれぞれの横顔に落ちて美しい。わたしは道の真ん中を歩く。太陽の光が直接届く場所。あの人も同じ空の下を歩いてるんかなと思わせてくれる、どこまでも続く真っ青な空。行く手を阻むとすれば、ふわふわの白い雲。


大きなザトウクジラが見えてきた。
いつ見ても、まじデカい。たまにドキッと怖かったりする。
今日は、国立科学博物館を訪れた。

企画展「WHO ARE WE 観察と発見の生物学ー国立科学博物館収蔵庫コレクション | Vol.01 哺乳類」

を見たさに、原稿がひと段落着いたところで、家を飛び出した。

広くて、たくさんの展示部屋がある科博でも、常にすべてのコレクションを展示できるわけではない。むしろ、その多くが普段は、収蔵庫に眠って、出番を待っている。「標本」も然り。

本展は、「観察の眼、発見の芽」をテーマに掲げ、同館の収蔵庫の中から「ヨシモトコレクション」を中心に、哺乳類など動物標本を展示・紹介する試み。科博に行ったことがある方は、きっと地球館の「大地を駆ける生命」の部屋に圧倒された経験があるかもしれない。そう、あの剥製の大群が展示してある展示室。ここで展示している剥製の大半も「ヨシモトコレクション」。ヨシモトさん(1909~2004)は、ハワイの実業家であり、狩猟家。はじめは家族の食料のための「必要」としての狩猟だったが、いつしか野生動物の姿を剥製として記録し、残し、ハワイの人々に紹介したいという想いが芽生え、氏が敬愛するルーズベルトのように剥製のコレクションを博物館で利用し、野生生物の保護することを目指すようになったとのこと。こうして育まれた標本群がハワイ・オアフ島のヨシモト財団より国立科学博物館1997年に科博に寄贈された。だから、東京・上野という地で、こんなにたくさんの生命の形に出会うことができる。動物たちの運命も数奇なものです。

美しい剥製が点在する会場。剥製はガラスケースに入っていないので、うんと近くで見ることができ、触れることはできなくても、手触りが伝わってきた。今は、資料として目の前にいる動物たちも、かつては自然の中を縦横無尽に走ったり、食べたり、居眠りしたり、生きてたんだよな、と剥製になっても消えない生命力のようなものが伝わってきて、地球に放り出されてたかのような心持ちになって不思議だ。たった一体の剥製から地球のダイナミズムを感じる。

そんな、ひとつひとつの剥製を取り囲むようにさまざまな箱が設置されている。そこから「名前の群れ」「私はここ、君はそこ」「どどっとドット」など、「一体、この言葉は何を示しているのだろう」という、好奇心を掻き立てる言葉が記されているでっぱりが顔を覗かせる。この、でっぱりに手をかけると、おやまあ、これが引き出しであることに気づく。引き出しの中には、でっぱりの言葉の中身が詰まっていた。「名前の群れ」の引き出しには、哺乳類の名前のタグがぎゅうぎゅうに詰まっていて、「どどっとドット」には水玉模様の生き物たちの標本。引き出しの中身を吸収してから、さっきよりも賢い視点で改めて剥製を見つめると、なるほど、今度は本を読み解くような視点で対峙できるからおもしろい。

片っ端から引き出しをあけていくと「リスの肩甲骨」の美しさに目を奪われた。
まるで、蝶々の羽のよう。儚さすら感じる繊細な美しさ。リスが小さな羽をパタパタと羽ばたかせて空を飛ぶ姿を想像すると、なんとも幻想的でかわいらしいな、なんて妄想してみる。空を飛ぶにしても、木の上をかけまわるにしても、どんぐりをつかむにしても、この小さな小さな骨が、リスの命を支えているんだなと思うと、途端にたくましくかっこよく見えてくる。

一番最後に手をかけた引き出しの見出しは「かもしれないを描く」。
開けてみると、古今東西、生き物を描いた絵の小さいパネルが無数に重なり合って入っている。
その中で、こんな一言と目が合った。

「憧れ。恐れ。願望。好奇心。ヒトが、想像力で自分や世界を知ろうとする唯一(かもしれない)生きもの」

世間は、夏休み。会場には子どもたちでにぎわっていた。クジラの歯の大きさに驚いたり、一角獣の角にかっこよさを見出したり、ネズミの剥製にちょっとおびえたり…そんな純粋な反応や言葉をたくさん浴びることができた。子どもたちはまさに、想像力を全開にして、標本の向こう側までも見ているようだった。

そんな無邪気な子どもたちをうらやましくも思いながら、目の前の引き出しの中にもう一度目を落とす。星座の図、ドラゴンなど架空の世界の動物たちの絵、伊藤若冲が描いた象の絵…子どもだけじゃない、年齢も国も関係なく、どうやらヒトは想像力をもって森羅万象を捉えようとしているんだな。わたしもそんなヒトの一員であることが嬉しく、そして楽しくなった。

わたしも全力で、唯一(かもしれない)の力と、存分に戯れたい。

「私たちは、誰なのか」
私は一体、何者なのか、何のために生まれてきたのか、なんていう問いを布団の中で考え出したら、宇宙のはしっこを考えるくらいキリがなく、しかもネガティヴになりがちだ。しかし「私たち」となったとたんに、気持ちが開けて、ヒト、哺乳類、動物、地球…と仲間の一員であることに喜びを感じることができた。なんと幸せなことだろう。

みーんみーん。
外では相変わらず、蝉が声高に歌っていて、ザトウクジラが夏雲の間を泳いでいる。
さっきより全てが生き生きと見えた。



追伸
こんな素敵に好奇心を掻き立ててくれる空間や言葉を生み出したのは、日本デザインセンター三澤デザイン研究室さん。さらに、本展を通じて国立科学博物館には科学系博物館イノベーションセンター 展示開発担当というチームがあることを知りました。これも、また非常に興味深く、今後も、科博の新しい展示の試みがとても楽しみ。

展示情報

企画展「WHO ARE WE 観察と発見の生物学ー国立科学博物館収蔵庫コレクション | Vol.01 哺乳ー」
2022年8月5日(金)~9月25日(日)
国立科学博物館・日本館1階 企画展示室
※詳細は展覧会WEBページをご覧ください

https://www.kahaku.go.jp/event/2022/08whoarewe/

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