福岡空港に着いた時は快晴だったのに、ホテルからOVERGROUNDに行く道中、突然雨が降り出した。
ザ――――――っとなかなか激しく降る。
そういえば、飛行機の中で、機長が雷の影響で機体が大きく揺れるかもとアナウンスしてたっけ。これのことか。
小走りで会場に向かう。
そんなに雨に濡れずにすんだ。
階段を上がり、ネオン管のOVERGROUNDのサインの下の扉を開ける。サビ付き方がいい感じ。
古賀学さん個展「OPEN TO THE PUBLIC」
つくりたいという欲望をあらゆる手段で実現してきた古賀学の仕事や作品の道のりそのままに、アート、デザイン、写真、映像、出版が混在する展覧会(ステイトメントより)。
「OPEN TO THE PUBLIC」は、古賀さんが1993年に個人で創刊したフリーペーパー「PEPPER SHOP」に入れたシンボルマークにあるキャッチコピーである。なるほど、本展は「PEPPER SHOP」発行から30年という節目の回顧展ともいえるかもしれない。
本展は、古賀さんのジャンルの領域を超えた幅広い仕事と作品を壮観できるとともに、もうひとつ忘れてはならない特徴が、ゲストによる展示解説である。古賀さんご自身が書かれた展示解説もあるが、大半はゲストによるものだ。
◇展示解説◇
鈴木萌夏(90年代日本美術研究者)
工藤健志(青森県立美術館学芸員)
大田洋輔(写真集水中ニーソ編集)
中村翔子(本屋しゃん)
からぱた(nippper編集長)
松永天馬(アーバンギャルド)
藤津亮太(アニメ評論家)
西尾雄太(漫画家)
◇展示コメント◇
宮脇修一(海洋堂)
Lorenz Georgi(Floyd)
中村圭介(REALISE)
Esther Ng(PRIX)
角倉真理(OKINAWA BLESSING)
そう、本屋しゃんも展示解説執筆のご依頼をいただき「月刊水中ニーソ」について解説文を寄せた(光栄です)。研究者、学芸員、編集長、評論家……そんな肩書のあるみなさまに交じり、「本屋しゃん」という肩書きが並列されていることに可笑しさを感じながら、こんな素晴らしい方々とフラットに扱ってくださる古賀さんに心から感謝。
わたしは書店員時代に、日本美術の棚を担当し、日本のアーティストのZINEのバイヤーもしていた。そこで、水中ニーソの月刊誌である「月刊水中ニーソ」を取り扱わせていただき(月刊ペースで自主出版しているの良い意意味でおかしい、最高と思って取り扱いを決めた)、『cube』刊行時には書店内での展示とトークイベントを担当させていただいた。「月刊水中ニーソ」については、ぜひ、展示解説を読んでいただけたら嬉しい。
会場の広さはなんと400平米。巨大である。
古賀少年時代の1枚の絵にはじまり、「PEPPER SHOP」、架空のプラモデル説明書、写真、映像、立体(ん~こういう言い方が正しいか謎)、プラモデルの仕事、装丁の仕事…………が展示されている。
フリーペーパー「PEPPER SHOP」では、村上隆さん、中ザワヒデキさん、小沢剛さん、白根ゆたんぽさん……などなど、錚々たる面々の「当時」が分かってしまう。これは貴重すぎる資料ではないか?! とともに、これをやってのける行動力にとても背中を押された。誰に頼まれたわけでもないけれど、やりたいこと、やるべきと思うことを実行するって、とても勇気がいると思うんだけど、その一歩を踏み出すこととそれを続けることの大切さとパワーを感じる。あと、楽しんでいらっしゃるなあという陽気な雰囲気。
本展は、全体を通じてゲストによる展示解説によって「展示空間」でありがなら「批評空間」となっていると感じた。
作品に関する事実とともに、各解説者による独自の視点、そして思い出などが折り込まれている場合もあり、作品を俯瞰できるとともに、新しい発見の連続だった。誰かのメガネでも作品を楽しめる。後でカタログで、寄稿された批評文を読むのと違い、作品と対峙しながら、さまざまな人の言葉を浴びるので凄い臨場感である。
さらに、アート、デザイン、写真、映像、出版…とジャンルを超えた表現活動を串刺しにする「串」が浮き彫られたのではないかと思う。
そんなことを考えながら会場を歩いていると、コポコポコポッという音が聞こえてくる。
水中の女の子の呼吸音だ。
ふと、この呼吸音がニ次元から三次元へ、次元を超える要のひとつなのではないかと思った。
生きてる人間の生きてる音が、写真や映像を急に立体的に立ち上がらせる。
そして鑑賞者を水中の中に引きずりこむ。
巨大な空間をここちよい呼吸のリズムで整えて安心感すら与えてくれる。
未だ雨は止まない。
内側も外側も水で満たされているようで不思議な気持ちになる。
写真、映像、立体、本……二次元、三次元……水中を縦横無尽に泳ぐダイバーのように、あちこちに移動しながら、どんどん次の表現方法へと潜っていく古賀さんのパワーは本当にすごい。30年分の仕事と作品に触れて、なんだかとても元気とやる気をいただいた。
そして、今度はどこに行くのか、どこに連れて行ってくれるのか楽しみだなあ…わたしもがんばろう…と、ぼんやり外を眺めていると、道行く人が傘を閉じはじめた。
OPEN TO THE PUBLIC
よし! 開いてくぞ!
雨上がりの町へ出た。
浮遊感たっぷりに。
展覧会情報
古賀学個展 OPEN TO THE PUBLIC
2023.8.4-8.28(火水お休み)13〜19時
OVERGROUND(福岡)
1000円※別冊月刊水中ニーソ付
https://overground.asia/exhibition-1/manabu-koga