多くの情報はネット上で得るようになった。
毎日毎日、膨大な情報が流れ込んでくる。
良い情報ないかな~と、釣り糸を垂らして待っていても、針も糸も、竿さえも飲み込みそうな勢いで流れてくる。だから、ワクワクする情報に出会えると、鮭をくわえるクマの木彫りの置物の如く、いいのんに出会えたと、がぶっと嚙みついて離さない。
その日、ポストをあけると魚が2匹泳いでいる。
魚譜画家・長嶋祐成さんから個展の案内のポストカードが届いていた。
ネット上とは違い、手紙は穏やかな波に乗って来てくれる。
嬉しい便りだ。
個展会場は根津のギャラリー・マルヒ。
大正6年に建てられてた元質屋を改造したギャラリー。和室に「座敷蔵」が隣接されているとてもステキな空間だ。ちょっと路地を入ったところにあるのが、まさにマルヒっぽくて良い。
秘められた場所。
長嶋祐成個展「サウスシー・アバンチュール」
2023年5月27日(土)~7月2日(日)に尼崎市総合文化センター 美術ホール で開催された「魚へのまなざし −長嶋祐成と大野麥風−」展の出展作を拝見できるとのこと。行きたかったけど行けなかった展覧会だったので、ギャラリー・マルヒでその一端を見ることができることがとても嬉しかった。大野麥風(1888年-1976)は、昭和初期に活躍した日本画家で魚の画家としてその名を知られた。長嶋さんは2013年に東京ステーションギャラリーで開催された「大野麥風展~『大日本魚類画集』と博物画にみる魚たち」で作品と対峙し、作家のみずみずしい探究心に心を打たれたという。
なんでアバンチュールなのかしらと思っていた。
アドベンチャーや冒険、探検という言葉にあるような、無邪気さや猛々しさはなく、しっとりとした艶っぽいイメージの言葉である。
大きな作品や鉛筆画もあり、とてもリズミカルな展示だった。
俯瞰、そして一匹一匹の魚に迫る仰視。サウスシーのさまざまな表情が描かれていた。
豹柄にパステル色なギャルみ溢れてかわいいの! と、わたしは、アセウツボがとても好きになった。
「実際にこんな色をしているのですか」と長嶋さんに尋ねてみる。
描かれているこのこは赤ちゃんで実際は白地とのこと。
白だからこそ光加減でいろんな色の輝きをはらみ、ほのかに内臓が透けているようにも見える。そんな色を重ね、さらに、捕獲時に使った網が青い色だったこともあり、青い色が強く見えた様子を描いたとのこと。
なるほど、ウツボの自然の色と長嶋さんが捉えたその瞬間の色の重なり合っているのだ。
長嶋さんの作品は、魚と人との関係性があるところに魅力があると思う。自然と人間の接点だ。きっと、このアセウツボも出会った時間や場所、使った網の色が違ったら全く別の色を持った作品になっていたのだろう。それを想像するととてもおもしろい。
「踏み出した足がどこまで沈むか分からない泥底の川を、ゆっくりと進む。マングローブの木漏れ日が揺れる濁った水面にそっとルアーを浮かべると、がぶりと水音がして竿先に重みが伝わる。ー中略ー 潮だまりの岩陰から引きずり出した魚体は、思い浮かべていたよりずっと大きく、美しかった。気が抜けて座り込む。魚は器に横たわって大息を吐いている。強い陽射しと、耳に迫るセミの声」
(本展ステートメントより)
魚たちが棲む世界はきっと人間のそれとは違うから、そこに足を踏み込むことは、少しの怖さと興奮があるかもしれない。もしかしたら危険が及ぶこともあるのかもしれない。わたしたちの知らない秘めたと力と美しさとの邂逅。
アバンチュール。
小さな路地でひっそりとたたずむギャラリー・マルヒの在り方に呼応していると思った。
長嶋祐成個展 「サウスシー・アバンチュール」
2023 /8/5〜16(7&14お休み)12:00〜19:00
ギャラリー・マルヒ(東京・根津)
http://blog.uonofu.com/230715-2/