ニコちゃんマークがポルカドットのように配された派手なセーターが軒先につるされている。
地はネオングリーンで、ニコちゃんマークを囲むようにスパンコールが付けられている。けばけばしいくせに、満面の笑みを向けてくるから憎めない。もう少しで買いそうになった。
バーバーのくるくるするやつ。サインポールと言うらしい。そのサインポールとやらに、赤と青と白の布ガムテープがぐるぐる巻かれている。お手製ポールの床屋さん。壊れたから修繕したのか、ゼロからお手製なのかはわからない。メンズ・レディース問はずカット&ブローで1500円らしい。
なにやらひらひらと宙を泳いでいるものがみえる。するめでも干しているのか近づくと、物干し角ハンガーに、色とりどりのリボンやレースが吊るされて売られていた。するめではなかった。吹き流しみたいで綺麗だった。
かれこれ自宅から1時間以上歩いている(体力をつけるために、とにかく歩くようにしている)。
Google先生のおかげで迷子にならずに済んだが、あっちにふらふらこっちにふらふら、目と心はあえて迷子になりまくった。
ようやく見えてきた。江戸東京博物館。大規模な改修工事のため2022年春から2025年ころまで閉館中だが、その改修工事の様子がかっこいい。近未来のどっかの星の基地みたい。
ここまで来たらもうすぐそこだ。
GALLERY MoMo Ryogoku。
今日はこちらで開催中の吉田和夏さんの個展「まばゆい迷路」を楽しみにやってきた。
吉田和夏さんは恐竜を描く人、恐竜が好きなアーティストとしてわたしの眼にとまった。
実は、わたしも小学生の頃、恐竜博士になりたいという夢があり、手製の恐竜図鑑を作っていたりしたものだから、和夏さんの作品をはじめて知ったその瞬間からハートを射抜かれた。いや、恐竜が描かれていたら何でも好きになるわけではない…。
和夏さんの作品は不思議な懐かしさと愛おしさがある。今ここに見える世界、ある世界ではなく、そう、どこかにある世界に迷い込ませてくれる。恐竜の骨を発掘するような、骨董市で運命のガラクタに出会うような、ロマンとユーモアとともに。
今回の個展も楽しく迷子になれた。ギャラリーの扉を開けた瞬間、ぐにゃりと時空がゆがんだあの感じ、不思議でおもしろかったな。すでに迷路がスタートしていた。
古いガム箱が額縁のように使われているシリーズの前で足をとめる。骨董市でガムのパッケージに出会った時に、額縁のように使いたい! とひらめいたとのこと。まさかね、ガムのパッケージも自分が額縁になるなんて夢にも思っていなかったよね。素敵な転生だ。
ガムパッケージ額縁の中には、ガム恐竜のドローイング。ガム恐竜はくにゃくにゃに噛んだ後のガムに恐竜が宿ったようで、柔らか形をしている。子どもの頃、噛んで味のしなくなったガムを謎の形にして遊んでいたことを思い出した。あるいは、噛みながら口の中で何かしらの形を作ってみようと頑張ったものである。そんなガム恐竜、見ているうちにだんだんと恐竜の妖精のように見えてきた。この妖精にピクシーダストをかけられると、迷路に迷い込んでしまいそうだ。そしてこのガム恐竜が掌に舞い降りてきたら、優しくしてあげたいなんて気持ちになるのである。骨董市のガムパッケージが、和夏さんの手元にやったきたことで、こんなに世界が広がるのってとてもおもしろくて、すてきなことだなと思う。和夏さんは古いモノを次の物語につなげていく橋渡しのような、語り部のような存在だ。
歩みを進めると、本棚が描かれた大きな作品。わたしも本棚を見ていると、本に書かれていることがあふれ出てこちらに向かってくる感覚に陥る。まさに本は、本棚は迷路だ、と思う。
さらに進む。すると、ちょうどガム恐竜の対面にはふあふあの恐竜が、ポツネンと佇んでいる。この子が、また愛おしいのなんのって。しばらくこの絵の前から動けなかった。迷路に迷い込んでゴールはどこなのーと焦っている時に、この子に出会えたら、どれだけ心救われるだろう。もふっと、ぎゅーっとしたくなるに違いない。
迷路のように、はじまりがあっておわりがある世界で、不惑の歳に到着した私は、迷う/迷わないについて考えている。
こどもは猛烈なスピードで駆け抜けていく、不思議なくらい止まらない。かつては私もずんずん進んでいた。
今の気分は、積極的に辿り着かないでみようという感じ。先に進むのが怖いだけかもしれない。
ふくざつな迷路の中で、眩い景色を探してみる。
2023年 吉田和夏
まばゆい迷路ーアーティストコメントより
迷路はちょっぴり怖いけど、おもしろい。迷子になることはネガティブなことかもしれないけど、やっぱり楽しかったりする。ゴールしたいようでしたくない気持ちもある。猛スピードで駆けていくと、見逃してしまうことがたくさんある。そんなことに気づいたのはわたしも最近のことかもしれない。
帰路はGoogle先生には頼らずに歩いた。
相変わらず、お手製のサインポールは何食わぬ顔で立っていてお客さんを待っていた。
するめに勘違いされたリボンの吹き流しはもう店の中にしまわれたらしい。
ド派手なニコちゃんセーターのお店はシャッターが閉まっていた。
歩きながら、和夏さんの「積極的にたどり着かない」この言葉が心に響く。
わたしなんて、たどり着く先があるかどうかさえ分からないし、どこにたどり着きたいかすら迷う日々。だけど、わたしも、いつかまばゆい景色に出会えるように、いろんな道を歩くことを積極的に試してみようと思う。
展覧化情報
吉田 和夏|まばゆい迷路
2024年1月13日(土) – 2月17日(土)
11:00 – 19:00 日曜・月曜・祝日休み
@ GALLERY MoMo Ryogoku(〒130-0014 東京都墨田区亀沢1-7-15)
https://www.gallery-momo.com/current-ryogoku
吉田和夏さんのWEBサイト: http://kagou3192.com/