
若手の落語家には幸運にも世間に知ってもらうきっかけとなるような「賞レース」がいくつもある。
「NHK新人落語大賞」
「北とぴあ落語選手権」
「さがみはら落語選手権」等々、上げれば枚挙にいとまがない。これらの大会は対象が二ツ目という階級に限られているので、「真打になるまでにはどうにか!」みたいな風にしてみんな必死こいてやっている。もちろん、この僕も出場の機会がある限りは参加している。
どの賞でもいいから、いつか優勝して、偉そうに寄席の楽屋で振る舞うのも密かな楽しみだ。前座からお茶がもらえなかったら「おい!早くお茶持って来きなよおれは○○優勝してるんだよ」と言ってみてもいい。
あからさまに楽屋では偉そうな態度へとバージョンアップして『あの兄さんも天狗となって終わった』と言われてみたいものである。
イラストレーターでエッセイストのみうらじゅんさんが1994年から始めている『みうらじゅん賞』は審査員がみうらじゅんさんただ一人。
この賞の評価基準は「偉い人が評価する賞」ではなく、「自分の心が震えたら表彰する」というもの。こんなナイスな発想がありますか_。
そう、この世で僕が一番好きな『賞レース』がこのみうらじゅん賞なのであります。
『他人がいいと評価するものは良い』という相対評価的発想から『おれは好きなんだよこれが!』という絶対評価的発想。まさに仏教マニアの先生らしい「天上天下唯我独尊」のイズムが流れていると思う。
そしてこの栄えあるみうらじゅん賞に選出された一つがお菓子の「アルフォート」。
そう一度は皆が手にし口の中へ運んだ事があろうあの「アルフォートである」。余談だが残クレで買えて国道を勝ち組の気分で走れる車は「アルファード」。
余談である。
そうアルフォートの話よ奥様。僕は今も高座前に小腹が空いた時にはこのアルフォートを常備して、糖分を摂取し出番に備えることもしばしば。そう、けして自分から主張してこない名脇役だ。だってそうでしょ、あのチョコレートの上に精巧に彫刻されたヨットなんか描けた日には一日中家族に自慢するでしょ。それをまあ普通の人なら見逃してしまうくらいのさりげなさ。見習いたい。。
とまあ、本題に入るのはここから。(この本題に入るためにわざわざ賞レースの話から導入部分長い)このみうらじゅんさんの著書の「ない仕事の作り方」という本が面白い。
これまで「ゆるキャラ」「マイブーム」などの造語を広めてきた、みうらじゅん先生曰く
ない仕事は自分が好きなものを「これ絶対あったらいい」と思い込む自分洗脳から始まるそうで、それを自身で雑誌社に営業をかけ、広報していく「一人電通」を敢行するという。
あるイベントで、ゆるキャラが一体一体、一時間半かけてただ紹介されていくだけの催しが予定された時など、前例がない中で不安になることもあるんだとか。
しかしそういう時は「そこがいいんじゃない!」「だから面白いんじゃん」と魔法の呪文を唱えるのだそう。
浮世絵と落語のコラボレーションのTRiPは3人で「ない」仕事を作っている。
でもそれがいい、だからいい。
それから前代未聞!11月23日にぎわい座の
大型独演会の「柳家あお馬 独演祭」も
二ツ目が大箱へ挑戦し、さらに「ゲストなし」というこれまでに「ない仕事」だ。
だからむずかしい。
でも、そこがいいんじゃない。

謝楽祭の次の日、落語協会から搬入の運転を頼まれた日の一枚。
これも普段なら「ない」仕事。否、仕事じゃなくてボランティアだった。
(文・柳家あお馬)
【プロフィール】
柳家あお馬 (やなぎや あおば)
1989年神奈川県出身。より多くの人に落語を楽しんでいただきたいという想いから、寄席や落語会に精力的に出演中。失敗しがちな落語の住人に、人間的な愛嬌を感じさせてくれる存在として、魅力を感じている。そんな「落語の可笑しみ、登場人物の愛らしさを素直に表現できるような噺家」を目指している。
WEBサイト: https://yanagiya-aoba.com/
X: https://twitter.com/yanagiyaaoba
次回のTRiP
千住宿開宿400年記念版
「TRiP ー落語×浮世絵ー」
第7回 テーマ:酒
開催日 2025年10月18日(土)
時間 18:00開場、18:30開演〜20:30終演予定
※18:00~開演時間までOPENING ACT 渡邉晃によるJAZZピアノ
会場 仲町の家 (足立区千住仲町29-1)
アクセス 北千住駅より徒歩約10分
参加費 2,800円(税込) ※事前決済
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柳家あお馬独演祭2025
2025/11/23(日)12時開場、12時開演
横浜にぎわい座
🔻ネット予約
confetti-web.com/events/9751
🔻✉️直予約
onepromotion0710@gmail.com
【TRiPの人たちとは】
「TRiP」は、柳家あお馬(落語家)、渡邉晃(太田記念美術館 学芸員)、本屋しゃんの3人が作る「落語と浮世絵が出会う落語会」の名前であり、チーム名です。それぞれ活動するフィールドは違えど、「落語と浮世絵」をジャンルを横断することでもっと楽しんでほしい! そして、双方の魅力を広げたい! という想いのもとチームを結成しました。「TRiPの人たち」では、あお馬、晃、本屋しゃんが一体どんな人なのか、普段はどんなことをしているのかなど、メンバー三人のそれぞれの活動やなんでもない日常をお届けしていきます。TRiPをもっと楽しんでいただくための、ふりかけのような、そんなブログです。

【これまでのTRiP】
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