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まじめに愉快する。ーアーティスト牛木匡憲さんと出会った日。

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「はじめまして。本屋しゃんです。」
と名刺を渡すと・・・「かわいい!」「ステキ」「似ている!」と、多くの方に言っていただけて嬉しい。本屋しゃんの名刺は、わたし自身がとっても気に入っているの。それもそのはず。だって、似顔絵とロゴはアーティスト 牛木匡憲(うしき・まさのり)さんに描いてもらい、グラフィックデザイナー 宮添浩司(みやぞえ・こうじ)さんにデザインしていただいたから。お2人のセンスにはいつも唸ってしまう。そんなお2人に作っていただいた名刺は、わたしなんぞには贅沢すぎるんだけど、挨拶の際に差し出すたびに、なんだか背筋が伸びる。そして緊張がほぐれる。いつしか、自己紹介を忘れ、2人がいかに最高かの熱弁をふるってしまう。他己紹介である。


それが、これだ。

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大学の何年生の頃だったか忘れてしまったけど「遊戯論」という講義をとっていた。
わたしがしつこいくらいに研究室に遊びに行った教授が企画した講義。「こぼれちゃった自己紹介」でちょっと触れた、ラーメンズのDVDを貸してくれた、あの教授。一緒にお笑いを観に行ったのは陽気な思い出だし、落語の魅力も教えてくれた。柳家喬太郎さんのファンになったのも先生のおかげだなあ。先生は科学的合理性、笑芸分析、 創造性探究、 パラドックス論が研究テーマ。専門という武装を解除して、学問の広がりと、つながりを教えてくれた大切な人。先生と話すのがわたしは大好きだったなあ。


それでね、その「遊戯論」の最後の課題が「“遊び”がテーマならなんでもいいよ」的なものだった。オリガミを提出している人、おにごっこをしてレポートしている人など、さまざまだった。そんな中、わたしは「愉快犯」をテーマにレポートを提出した。といっても、犯罪について言及したかったわけではない。愉快を犯すという心情から「遊び」のさまざまな性格を浮かびあがらせることができるのではないかと思った。愉快というポジティブだけに収まらない不可解な言葉に、遊びを解き明かすヒントがあるのではないかと。それからなんだか「愉快犯」という言葉が、気になっている。

大学を卒業してから新潟を離れ、上京した。
愉快な日々を送っているわ。毎日リビングで、teshと踊って、笑ってる。


アーティスト 牛木匡憲(うしき・まさのり)さんとの出会いは突然だった。
いつものようにiphoneのモニターを指でなでなで。twitterやinstagramをスクロールスクロール。ブルーライトを放ちながら通り過ぎゆく言葉と画像。

そんな中、モノクロのキャラクターと目があった。わたしのinstagramのタイムラインで。
わたしの指がスクロールを止める。


顔!!
シュール。
ユーモア。
線力。
画力。
どこかで見たことがあるような懐かしさ。


「え、好き。」

それから、毎日毎日、そのキャラクターたちはわたしのinstagramのタイムラインに現れるようになった。そう、毎日毎日。おかげで、わたしの毎日はさらに愉快になった。今日は、どんなキャラクターに出会えるのか。いつの間にか、すっかり牛木さんのファンになっていた。

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このキャラクターたちは、牛木さんが2016年より毎日1つずつ描き、instagramで公開を続けているポートレイトシリーズで、「VISITORS」と名付けられている。フォロワーのタイムラインに訪れる「訪問者」という意味でこの名前をつけたそうだ。VISITORSは牛木さんが少年時代に出会い今も彼の記憶に強く残っているアニメーションや漫画、スーパーヒーローたちが深淵の発端となり、日々、誕生する。どおりで、わたしのinstagramのタイムラインを日々ノックするわけだ。

2017年6月に、原宿の「ギャラリー  ル・モンド」で開催されたグループ展「BLINDERS」ではじめて牛木さんの原画を拝見し、はじめてご本人にお会いし、はじめて似顔絵を描いてもらった。一気にたくさんの初体験。当時、透明半球をふざけて被っても違和感がないと言われ、ジョギングするたびに、ボフンボフンとなるパッキパキのボブヘア、THEおかっぱだったので・・・似顔絵は、こうなった笑。

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愉快である。悪意を感じる。実に愉快である。
額の顔のいやらしい目つきが・・・最高である。


わたしは、当時、銀座 蔦屋書店でアートコンシェルジュとして日本美術の棚を担当していたのだけど、自分の棚で現代のアーティストの本を展開することで、日本美術史をリアルタイムに更新していきたかった。牛木さんが必要だ。牛木さんの本を取扱わせていただくことが、牛木さんの作品を発信することが、「本」を通じて日本美術の行く末を広げるきっかけになると思ったし、むしろ、書店にふらっとくる普段アートには触れていないというお客様にとってのアートの入口になると思った。そして、何より、わたしの「好きだ!!!」という、この気持ちはきっと多くの人に伝えられる、バトンタッチできる、それが多くの人の毎日を、わたしがそうだったように、陽気にできるに違いないと思ったの。(一文が長いなあ。)

「ZINEを仕入れさせてください!わたしに販売させてください!」
意を決して、その場で牛木さんに伝えた。
そう、このいやらしい目つきで(笑)

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初対面で、どこの馬の骨かもわからないような、(わかるのは、すげーおかっぱだなあ、主張するメガネだなーくらいだったであろう、)わたしの要望に、牛木さんは快くOKをしてくれた。この「OK」の一言が、どれだけ嬉しかったか。

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『VISITORS』。Instagramで牛木さんが日々発表し続けている訪問者たちをまとめた本だ。これが、わたしが人生ではじめて仕入れた「ZINE」だ。

それから、ZINEの販売を続けるとともに、似顔絵会を企画したり、VISITORSの集大成ともいえる作品集『VISITORS.』(aptp)の刊行記念フェアを企画したりと、いろいろな企てをご一緒してきた。

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そんな中で、牛木さんにインタビューをさせていただく機会を得たの。そのインタビューで、牛木さんが「ぼくは愉快犯」だとお話された。まさか、ここで「愉快犯」という言葉に出会えるとは!!!インタビュー中に喜々としてしまった。わたしが、大学時代からずっと気になっていた言葉「愉快犯」。牛木さんの作品は、不思議で、ユーモアがマシマシで、時に皮肉めいてもいる。そんな、マシマシなユーモアや皮肉っぷりは愉快に変わり、誰かを、何かを傷つけるためのものではなく、むしろ、鑑賞者の思考を活性化させる着火点のように作用する。

わたしは、VISITORSは外部からの訪問者であるにもかかわらず、なぜだか、自分の内側に住んでいるような気がしてならない。自分の心の、陽気な部分、寂しい部分、いやらしい部分・・・そんなさまざまな要素が可視化されたみたい。エグられるんだよなあ。

このように鑑賞者の気持ちをほうぼうにかき乱す・・・ふむ、愉快犯である。愉快をばらまく犯人で、見る者を困惑させる犯人だ。

最後に伝えたい。
牛木さんは真面目な愉快犯だ。愉快を真面目にしているのだ。
愉快に真面目に向き合って、描くことに真面目で、アートに対して真面目なのだ。
だからこそ、毎日毎日、タイムラインに訪問者がやってくるし、線がどんどん美しくなっていっているし、ユーモアにも磨きがかかりまくっている(お前何様だという、上から目線)。

ここでいう、真面目とは決して生真面目という意味じゃーない。
真面目は、自分の信じることとか、好きなこととかに全力で取り組むこと。
生真面目は決められた箱に収まって、決められたことをそつなくこなすこと。
どちらがいいとかわるいとかではなく、私はこのように使い分けています。

VISITORSがわたしのinstagramのタイムラインにやってくるたびに、
わたしも、自分の道に真面目でありたいと改めて思う。
そして、わたしも、誰かの愉快でいることができたら幸せだと感じる。



「はじめまして。本屋しゃんです。」
いつか、これを読んでくれているあなたにお会いして、名刺をお渡しさせていただく日がきたら、また改めて、真面目な愉快犯についてお話しさせてくださいね。

※本記事の初出は2020年3月5日@noteです。2022年2月9日に本サイトに移転しました。

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