わたしたちの南方熊楠 企画記事

【企画記事】手紙3:一條宣好さまへ「強烈な教授のあの講義ではじめて熊楠と出会いました」中村翔子より2020年2月5日)

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一條宣好さま

2020年2月5日(水)外はどうやらあたたかくて気持ち良さそうな天気の東京です。床に伏せているわたしは、窓から見える青空に恋しさとともに歯痒さを感じています。


こんにちは。寒中お見舞い申しあげますと挨拶をしてから、暦の上ではすでに春。常套句ですが、時がt経つのは早いですね。

そういえば、わたしは、小学生の頃、京都に住んでいる女の子と文通をしていました。会ったこともない女の子でした。その子との出会いは、購読していた「子ども新聞」の文通相手募集のコーナー。その子の投稿を読んで、手紙を送ってみました。それから、数年。中学生になるまでかな、文通を続けました。新聞で出会う、しかも新聞に個人情報が晒されている、時代を感じますが、楽しかったことには間違いありません。いつか会いたいねとお互い話していたけれど、結局それは叶わずじまいでした。

しかし、この不思議な出会いは、幼少期のわたしに何かしらの影響を与えていたように思います。一條さんからお返事が届いた時、当時、学校から帰ってきて郵便受けに彼女からの手紙が入っていた時の嬉しさが蘇りました。彼女からの手紙はいつもハデで、封筒も切手もいつもかわいくて、どんな郵便物にも埋もれることなくキラキラしてました。一條さんからのお返事も然り。

新聞で未知の人との出会いをしていた時代とは違い、確かに今は、SNSを通じて繋がることができますね。わたしの他愛もない『街灯りとしての本屋』の読後感ツイートを拾っていただき、ありがとうございました。それこそ、わたしくんだりのたった一言なんて、莫大な数のつぶやきの中に埋れてしまいそうなのに。相互フォローを経て、一條さんと直接の交流をさせていただけるようになり、とても嬉しかったです。

『街明かりとしての本屋』に敷島書房さんが掲載されたきっかけも、twitterにあったのですね。twitterは良い点ばかりでなく、悪い点もたくさんあると思うのですが、こんなにたくさんの縁が生まれていることを考えると、自分がどんな目で、どんな気持ちで、どんな思考で向き合うかが大切なんだなと思いました。「百書店の本屋祭」の情報も、一條さんが本を愛し、本屋さんを愛していらしゃる目とお気持ちをお持ちだから、しぜ~んに出会えた情報であり、企画なんだろうなあ。それにしても、さすがは松井さんと竹田さんのステキ企画でしたね^^

さて、ご質問いただいた「わたしが南方熊楠になぜ関心を持ったのか」について。
そうですよね~、日本史には出てこなかったですね。
そもそものきっかけというか、はじめてわたしが南方熊楠の名前を認識したのは、大学生の頃だったと記憶しています。もしかしたら、それより前に名前くらい耳にしていたのかもしれないのですが。


 
わたしは、新潟大学の人文学部の行動科学課程というところに籍を置いていました。簡単にいえば、哲学を学んでいましたとでもいいましょうか。「ドゥルーズにおけるシミュラークルとその可能性」と題し、ドゥルーズの『差異と反復』からシミュラークル論を抽出し、それと椹木野衣さんの『シミュレーショニズム』を繋げるぞ! という無謀な卒論で卒業しました。そんな哲学中心の学生時代を送る中、あれは、確か、大学1年生の教養課程として受講した理工系の講義での一コマ。

その教授が、動物と人間の違いの一つは「セックスである」という話をしだしたのです。二足歩行をする人間は、さまざまな体位ができるようになったが、いわゆる動物はこういう体位しかできないでしょう? と、壇上で、動物的体位と人間らしい体位をジェスチャーを交えながら熱く語る教授。いたって真剣にされていたことをきちんとつけたしてお伝えしておきます。その強烈な画が頭から離れないのです。頭をいくら降って、その画を振り落とそうとしても無理なのです(笑)この流れで、南方熊楠が、この教授から語られたのです。セックスの研究といえば、南方熊楠ですね、と確かこんなノリで。
しかし、熊楠はそれだけではなく、粘菌とかいろんな研究してたおもしろい人なんですよと。この教授が強烈だったことに加え、南方熊楠という人もどうやら教授が言うようにおもしろい人ね、とルーズリーフにすかさずメモをしました。講義が終わった後は、一緒に受けていた友人たちは、教授の例のジェスチャーで話題は持ちきりだったのですが、わたしは、南方熊楠がぼんやり気になって、彼女たちの声があまり耳に入ってこなかったように思います。



講義内容はおぼろげなのですが、わたしが熊楠好き!! という気持ちが芽生える前のファーストコンタクトは、この講義でしたね。今思うと、わたしのはじめての熊楠は、粘菌でもなく、隠花植物でもなく、民俗学でもなく、セクソロジーだったんだなあと。きっと、これをきっかけに「南方熊楠」の名前が、わたしの中に刷り込まれ、時が経って、それが呼び起こされることになったのですねえ。


いやはや、一條さんからの質問のおかげで、懐かしいことを思い出せました。一條さんの南方熊楠との出会いはいつでしたか?大学生?高校生?はたまたもっと前でしょうか。「出会い方」って気になってしまいますね^^


                                中村翔子

【往復書簡メンバープロフィール】

一條宣好(いちじょう・のぶよし)
敷島書房店主、郷土史研究家。
1972年山梨生まれ。小書店を営む両親のもとで手伝いをしながら成長。幼少時に体験した民話絵本の読み聞かせで昔話に興味を持ち、学生時代は民俗学を専攻。卒業後は都内での書店勤務を経て、2008年故郷へ戻り店を受け継ぐ。山梨郷土研究会、南方熊楠研究会などに所属。書店経営のかたわら郷土史や南方熊楠に関する研究、執筆を行っている。読んで書いて考えて、明日へ向かって生きていきたいと願う。ボブ・ディランを愛聴。https://twitter.com/jack1972frost

本屋しゃん似顔絵

中村翔子(なかむら・しょうこ)
本屋しゃん/フリーランス企画家

1987年新潟生まれ。「本好きとアート好きと落語好きって繋がれると思うの」。そんな思いを軸に、さまざまな文化や好きを「つなぐ」企画や選書をしかける。書店と図書館でイベント企画・アートコンシェルジュ・広報を経て2019年春に「本屋しゃん」宣言。千葉市美術館 ミュージアムショップ BATICAの本棚担当、季刊誌『tattva』トリメガ研究所連載担当、谷中の旅館 澤の屋でのアートプロジェクト企画、落語会の企画など、ジャンルを越えて奮闘中。下北沢のBOOKSHOP TRAVELLRとECで「本屋しゃんの本屋さん」運営中。新潟出身、落語好き、バナナが大好き。https://twitter.com/shokoootake


【2人をつないだ本】

『街灯りとしての本屋―11書店に聞く、お店のはじめ方・つづけ方』
著:田中佳祐
構成:竹田信哉
出版社:雷鳥社
http://www.raichosha.co.jp/bcitylight/index

※この往復書簡は2020年2月1日からメディアプラットフォーム「note」で連載していましたが、2023年1月18日より本屋しゃんのほーむぺーじ「企画記事」に移転しました。よろしくお願い致します。

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