夜、なかなか眠ることができない。
ドキドキ、そわそわしてしまう。
心配事が多いのか、何なのか。
そのくせ、朝早く起きてしまう。
空が白ける前に。
早起きは苦じゃないし、夜は嫌いじゃない。だけど、自分の眠れなさとは裏腹にどんどん深まっていく夜にはうまく馴染めない。眠る前のブルーライトはよくない。らしいけど、無理。見ちゃう。そのくせアイマスクしてみたり、アロマを焚いてみたり、時には導眠剤を飲んだりして、夜に沈もうと試みる日々。悪あがきなのか。眠れ眠れと自分に言い聞かせはじめると、そんな自分が怖くなってきて余計に眠れない。夜だけが進む。
私は真夜中に起きている。
吉田 和夏「beyond the night」 ステイトメントより
タブレットをつけて描いていたり、布団の中で宇宙や人生を考えるのが止まらなかったり。旅先で目を覚まして、カーテンの外を覗いたりする。
そんな時に、峠の定点カメラを通り過ぎる車がある。レベル1 になるまでゲーム配信している人がいる。家の真上の空は暗くてもどこかでくっきり星が見えている。
同じ時間に違う景色を目撃している人がいる。幾千もの夜の越え方。今は宝物を見つめて、越え難い夜をこえましょう。
2021 年 吉田和夏
そう、わたしの夜とは別の夜がたくさんあるんですよね。
同じ夜だけど違う夜。
現在、GALLERY MoMo Projects(六本木)では、画家・吉田和夏さんの個展「beyond the night」が開催中。
そう、本屋しゃんがBOOK LOVER’S HOLDAY #5でフィーチャーさせていただきました。吉田さんのZINE『dope dino』を手に取り、恐竜への愛、そして恐竜との距離感が絶妙に不思議で美しい作品に惹かれたのがはじまり。それから、吉田さんが描く「永い時間を感じる」世界に飲み込まれ、「わかる世界にとらわれないで、柔らかに絵を描き、ものを作っていきたい(斜字は吉田さんのステイトメントより)」という想いを土台に誕生した作品をやわらかに楽しませていただいているの。
今回の個展は、コロナ禍において、多くの人が様々な問題に直面しているであろう「誰かにとって越え難い夜」がテーマ。だけど、そんな中でも前向きに広い世界があると、と気づきをくれる展覧会です。
骨董市で出会ったという謎のお土産物、恐竜のフィギュア、ぬいぐるみ、図鑑……今まで通りに自由に出かけることがままならない今、吉田さんの視線は自分の身の回りの物たちに向けられました。
小さくて日常すぎるかもしれない物たちだけど、そんな小さきものたちが、「永い時間」へ、「わからない世界」へ、宇宙へ!誘ってくれるんだよ。夜という魔性な時間なんて特に。吉田さんの作品に触れたら、普段、効率化の波に飲まれ、こぼしてしまっている気持ちが浮上し、小さい頃、哲学者になった気分でぐるぐるふむふむ宇宙について考えた布団の中、絶対この子たちは夜動いているのよと、布団の脇に置いたぬいぐるみを寝たふりをしながら観察した夜……そんな実は身近にある壮大な旅を思い出させてくれたました。
超えがたい夜がある。
だけど実は、その夜の先に広い世界がある。
楽しい楽しい、と、展示会場を旅していると、「透明」をたくさん感じた。
色のないものを色で描くのはすごい。透明以上に透明で宇宙だった。
透明のイデア、か。
透明は透明だけど、確かにある。
《ささやき》《眠りの化石》《夜をこえて》の3枚は、恐竜が透明な星型の物体越しにいるのか、はたまた化石のようにその中に閉じ込められているのか、すごく不思議な気持ちが押し寄せてくる。そして、極め付けは眼だ。目があうと、ヤバイ、見透かされてると緊張する気持ちになりドキドキした。だけど、優しさと、どこか悲しさも感じる眼だった。この3枚の前に立つと、静かで深い気持ちに陥った。
階段をのぼると
のぼると
恐竜たちが待っていてくれます。
小さくて広い世界が漂っています。
今夜はうまく眠れるかもしれない。
吉田さんのあたたかい作品のおかげで、会場を後にする頃には、自分が柔らかくなっていた。
夢の中で、いや夢かどうかわからない世界で、恐竜とかきのことか……そんなものたちに遭遇してしまいそうだけれど、ね。
展覧会情報
吉田 和夏|beyond the night
会期:2021年3月27日(土)- 4月24日(土)
処:GALLERY MoMo Projects@六本木
〒106-0032 東京都港区六本木6-2-6 サンビル第3 2F
※詳細はギャラリーWEBサイトをご覧ください
https://www.gallery-momo.com/future-roppongi
関連情報
本屋しゃんのオンラインストア「本屋しゃんのお店」では、吉田和夏さんのZINEやグッズを販売中。ぜひ、お気軽に覗きにいらしてください。