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【レポート】立川寸志の落語夜学会~「ことば」でひらく落語の世界~第2回:江戸の「べらぼう」ー蔦重/版元/貸本屋ー2024年11月14日(木)@BOOKSHOP TRAVELLER

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モーセの海割(「出エジプト記」の一場面)のようである。わたしはBOOKSHOP TRAVELLERで落語会の設営をしていると、いつも頭にモーセが両手を海に向かって広げると海が割れ両側に水の壁がそそり立ち…というあのシーンが目に浮かぶ。というのも、BOOKSHOP TRAVELLERの真ん中にピシッと並んだ本棚やフェア台を右に左に格納をしていくから、その様子が何となく似ているというだけなのだが…。

この日も、本棚を移動させて落語会の設営がはじまった。何がスゴイって、ここにある本棚や本箱は全て店主である和氣さんの手作りなのだ。だからこそ、店内には和氣さんのご陽気さとあたたかさが漂っていて居心地がいいのかもしれない。高座も作り、客席もほぼ設置したところに、寸志さんがいらっしゃった。わちゃわちゃしていた空気が一気に引き締まる。

今回のテーマは「べらぼうー蔦重/版元/貸本屋ー」。本屋さんで開催する意味を深めていきたいという想いから決めたテーマ(2025年の大河が奇しくも蔦屋重三郎ということもあり)。今回は第1回目とは違い、最後のトークを寸志さんが先生、和氣さんと本屋しゃんが生徒という立ち位置ではなく、3人それぞれフラットな立場でトークを盛り上げることに挑戦をする。サブタイトルにもある「蔦重、版元、貸本屋」を3人それぞれに担当を割り振り、課題図書を設けて、本番当日にそれぞれの知識や見解を持ち寄ってレクチャー兼トークをしようという趣向。
開演まで3人で最終打ち合わせをする。3人とも本が大好きなので、課題図書についての感想を話し合いだすと止まらない……本屋しゃんが小道具として作ってきたフリップを元に、もはや本番さながらの盛り上がりで、あーしようこーしよう、あーでもないこーでもないと打ち合わせのテンションが上がる。が、しかし!! ここで話しすぎると本番でのフレッシュさが薄れてしまうのはよろしくないので、ほどほどにブレーキをかけ、開場前にひと呼吸、ひと呼吸。

ぞくぞくとお客様がご来場される。第1回目にもご参加いただいた方、はじめましての方、みなみなさまのご参加が本当に嬉しく、受付をしながらみなさんに楽しんでいただくぞと。ここでも背筋が伸びる。

はじめに和氣さんと本屋しゃんがアイスブレイクトークをして、寸志さんの「江戸ことば講座」へ。
調光ができずON/OFFのどっちかだ! といういざぎのよい会場ゆえ、プロジェクションをするとなると暗がりになってしまうのですが、これが意外と、知の森に迷い込んだような暗さで楽しいと好評だったりします。

「べらぼう」の主な3つの意味にはじまり、「べらぼう」の応用的な使い方を十返舎一九の作品を交えながら紹介いただき、さらには、いくつか説がある語源についてと講義は続く。おもむろに木製のヘラまを取り出して、語源の説のひととつである「箆棒(ごはんをつぶすための竹製の棒)をより立体的に想像してもらおうという心遣い。なんでも、祖師谷大蔵の駅でちょうど売っていたから買ってきたとか。ちょうど売っているのが奇遇。
途中途中で「べらぼうだ!」「このべらぼうめ!」なんて、セリフめいたところは、さすが寸志さんが言い放つと江戸っ子の風がぴゅ~っと吹く。なんとも粋な講座で、タイトル通り、寸志さんは「ことば」でどんどん落語の江戸の扉を開けていく。

本屋しゃんが待機していた位置からの写真はなんだか隠し撮りみたいで申しわけないのですが……間近で寸志さんの表情を拝見すると、高座の上の時のそれとは違い、先生の顔。だけど、何でしょう、教える!という姿勢というより、共有しよう! この言葉のおもしろさを共有したい! という気持ちがより伝わってきて、お客様との一体感が増すのだなと感じた。

さて、お次は落語。今日の演目は『紙入れ』。
蔦屋重三郎が本屋さんだったことから、本屋さんに絡む落語ができるといいねと話し合いをしていたのですが、本屋さんが出てくる噺はあまり数がない……と悩んでいたのですが、降りてきたのが『紙入れ』!



貸本屋の新吉が、馴染みの商家の女将さんから、今晩は旦那が留守だから遊びにおいでという手紙をもらい、迷ったあげく、行くことにしたのですが……。


心配性の新さんのドキマギぶりと女将さんのどっしり構えたうえでのいたずらっぽさの対比が素晴らしく、新さんが女将の手の上でコロコロっと転がされている様子がよく伝わってきます。女将はやけに色っぽく、指の先まで色香が匂いたち、聴いているこちらまでドキドキしてくる始末。寸志さんの細部まで神経が行き届いた落語は、丁寧に落語の世界の空気を作り上げていく。
新さんがやらかした!という瞬間は会場の空気もピタっと止まり息をのむ。まざまざと新さんが顔面蒼白になっていることが伝わってくるとともに、表情やリアクションだけでなく、このあたりのリズムと流れの作り方はさすが。

話が進むと女将のセリフに「べらぼう」の一言が! 今日のテーマをバッチリ入れ込んでくださったのかと思いきや、もともとこのセリフがあったとのこと。ピースがばっちりとハマって驚きです。

仲入りをはさんで、最後は3人でトークタイム!
本屋しゃん作のフリップを使って、蔦屋重三郎とはどんな人だったのか、なぜ評価されているのか、そもそも貸本屋って何? 蔦屋重三郎が生きた時代はどんな時代だったのか?…を3人で語りあった。もちろんですが、先ほどの打ち合わせよりも話す話す話す! 打ち合わせでは出てこなかった、言葉も飛び交って、ああ、本番にフレッシュな語りができなかったら…という心配はすぐに吹き飛んだ。
本の企画したり、出版したりと、現代の本屋さんは本を販売するだけにとどまらないところも多くなってきているらしい。そんな現代の本屋さんのあり方がもしかしたら蔦重の頃と接続するかも?! と、和氣さんならではのリサーチ・取材力からのそれこそフレッシュな考えも出てきて、蔦重をテーマに江戸と現代の本屋さんを旅する時間になったと感じている。

ブックフェアで用意した本もたくさん手に取っていただき、完売した本も! 落語夜学会で持っていただいた興味をさらに本を通じて広げ深めていただけることはとっても幸せです。

2024年、立川寸志さんと和氣正幸さんと一緒に「落語夜学会」を立ち上げることができ、幸せな1年でした。これからも、「ことば」を通じて、落語と本の接点を作り、その魅力を発信していきたいと思います。
次回は2025年の春に開催予定! !鋭意準備中なので、ぜひ、楽しみにお待ちください。


本年は落語夜学会にご参加いただき、応援いただきありがとうございました!!
来年もどうぞよろしくお願いいたします。
良いお年を!!!

立川寸志の落語夜学会
~「ことば」でひらく落語 の世界~
第2回:江戸の「べらぼう」―蔦重/版元/貸本屋―

開催日:2024年11月14日(木)
時間:19:30開場、20:00開演
会場:BOOKSHOP TRAVELLER
https://honyashan.com/welcome/rakugoyagakukai02/

演目
一、江戸ことば講座「べらぼう」寸志
一、紙入れ 寸志
一、トーク 寸志、和氣、しゃん

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