BLOG RECCOMEND 展覧会

「広重おじさん図譜」展@太田記念美術館・原宿~2023年3月26日

投稿日:

ラフォーレ原宿の裏手。
道を挟んでこっちとそっちで雰囲気がだいぶ違う。
ドアが開く度に中からどぅんどぅんと低音が効いた音楽がここまで聞こえてくる。1978年に竣工されたらしいが、その前は一体ここには何があったのだろう。ここはどんな場所だったのだろう。中に入っていく若者たちをぼんやり目で追いながら、かつてのこの場所を想像して遊んでいた。次第に頭の中はセピア色になっていく。

美術館に入ると、彼女はトレードマークのベレー帽とピンクのコーデュロイのふんわりしたワンピースを纏った彼女がすでに待っていた。彼女とわたしの共通点はピンクが好き、というところ。はじめて会ったその日から、持ち物とか服装がよく被るし、よく似ている。今日のわたしはピンクのワンピースではないけれど、似たようなふんわりとしたシルエットのりんご柄のワンピース。やはり、ちょっと似ているのだ。可笑しかった。

浮世絵専門美術館 太田記念美術館
「広重おじさん図譜」展
を見にやってきた。


開幕2日目。館内は多くの人でにぎわっていた。
二人で歩みをそろえながら一枚一枚、おじさんひとりひとりをじっくり鑑賞し、堪能する。

わたしが歌川広重はおもしろいと思ったのは、《名所江戸百景》に出会ったことがきっかけだった。はじめて、それを見た時、「なんだ、この世界の切り取り方は」と驚いた。遠近のインパクトが力強く、一見、静かな絵に見えても、小太鼓と大太鼓が重なり合っているような、小粋なリズムに突然、ドキッとさせる大きな音が鳴り響ているような感覚に陥る。気持ちよさと驚きの連なり。そこから、広重=構図がスゴイという見方ができたが故に、広重が描く人物を注視したことがなかった。脇役であり、風景の一部。

今回は風景の一部と思っていた人物が主役だ。「おじさん」に焦点を絞った本展は、笑顔のおじさん、食べてるおじさん、がんばるおじさん、見つめるおじさん、あわてるおじさん、おじさんの休息と、いろいろな切り口でおじさんを紹介してくれてる。

こんなおじさんがいるよ~と、わたしに虫眼鏡を手渡してくれたようだった。本展でフィーチャーされなければずっとずっと見逃してしまったであろう人々に気づくことができた。おじさんたちの表情の豊かさから、広重は普段から人の観察を楽しんでいたんだろうなと想像する。次第に、鑑賞するだけでなく、おじさんたちに脳内アフレコして、彼らのセリフを妄想してみた。「とかその程度だけど。いくら小さく描かれていても、脇役に見えたり、風景の一部に感じてたりしていたとしても、そう、セリフを妄想したくなるくらい、ひとりひとりの物語が感じられた。

キャラだったおじさんたちを通じて、旅の道中のおじさんはばっちり黒々と日焼けしていたり、篭屋はちょっと疲た表情を浮かべていたり、武士はどっしり構えていたり、棒振りの威勢の良い呼び声が聞こえてきそうだったり……ぞれぞれのおじさんを通じて職業や身分、場所や状況、当時の生活、文化への理解が深まるし、描きとられた瞬間の前後を想像することができ、一枚の絵が急に時間を帯びて動き出すのだ。風景の一部と思っていた人たちは、実は、広重の作品の原動力として欠かせない存在なのかもしれない。

「落語家さんにセリフを考えて噺てもらったら楽しいね」
と、彼女。アフレコ遊び。どうやら同じようなことを感じていたらしい。服装や持ち物の嗜好だけでなく、浮世絵の楽しみ方も似ているのかもしれないな。

彼女と展覧会の感想を言いながら表参道をぶらぶらする。
誰かと一緒に展覧会に行くと、すぐに感想を言語化できるし、相手の感想にも触れることができるから、展覧会での体験をより咀嚼できて楽しい。


道中、ついつい浮世絵の住人を見てる目で、街の様子を見てしまう。
……寒そうに縮こまって歩くおじさん、ちょっと歩き疲れているおじさん、茶店で楽しそうに談笑するおじさんたち……どれもこれも、さっき浮世絵の中で見た光景と重なってくる。



高層ビルが立ち並び、瀟洒なハイブランドの店舗が立ち並んでいても、人間はどうやらそんなに変わっていないのかもしれない。2人できゃっきゃしながら歩いているわたしたちも、きっと浮世絵のどこかに描かれているはずだ。

展覧会情報

広重おじさん図譜
@太田記念美術館
前期 2月3日(金)~2月26日(日)
後期 3月3日(金)~3月26日(日)※前後期で全点展示替え

※詳細は美術館の公式WEBサイトをご覧ください
http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/exhibition/ojisanzufu

関連情報

本展を企画担当した太田記念美術館 学芸員の渡邉晃さんが出演されるイベントです。
是非、ご参加ください。

再演!「TRiP ー落語×浮世絵ー」
第1回 テーマ:トリップ

開催日 2023年3月5日(日)
時間 18:00開場、18:30開演〜20:30終演予定
会場 仲町の家 (東京・北千住)
参加費 2,500円(税込)






-BLOG, RECCOMEND, 展覧会
-, , ,

執筆者:

関連記事

\メディア掲載一覧 野菜と日本酒と落語の会 @ 元映画館 笑福亭羽光 「本と映画好きのあなたへ」/

野菜と日本酒と落語の会 @ 元映画館 笑福亭羽光 「本と映画好きのあなたへ」をたくさんのメディアにてご紹介いただいています。嬉しいかぎり!心より感謝です。この場を借りて改めて御礼申し上げます。東京新聞 …

\かける魔法で毎日がもっと楽しくおいしくな〜〜〜る-はらぺこめがね 絵本『かける』(佼成出版社)(勝手に選書付)/

『へんなおでん』に出会ったのは、北千住に引っ越してから間もない頃。今から数年前。早く街に馴染みたいなあと、毎日のように散歩をして下町らしい細く入り組んだ道を戸惑いながらも楽しんでいました。下町迷子もい …

\取材していただきました:『LUKE magazine 』vol.3 Running on Empty. 僕らの上京ものがたり。 /

今日は冬至ですって。今、北千住の「家劇場」というところにいます。築約90年の古民家です。緒方彩乃さんが家事をするように劇場をひらくための暮らしをする場所という素敵なコンセプトのお家です。そんな家劇場さ …

\日々に生きづく“美”/

八燿堂の岡澤浩太郎さんが編集・発行をされている『mahora』創刊号が千葉市美術館のミュージアムショップ 「BATICA」 に仲間入りしました。『mahora』は第3号まで発行されているのですが(20 …

\本でも楽しむ千葉市美術館の展覧会「新版画 進化系UKIYO-Eの美」~2022年11月3日/

千葉市美術館では2022年9月14日~11月3日に「新版画 進化系UKIYO-Eの美」展が開催されます。このたびも、光栄なことに本屋しゃんは本展にあわせた選書&ブックフェアづくりを担当いたしました。あ …