
あたたかな笑いと熱燗で、冬の夜に火がともる
春夏秋冬、年に4回しか出現しない「茶屋しゃんりん」。
茶屋しゃんりん 冬のゲストは、柳家あお馬さんと柳家ひろ馬さん。
冬と言いつつ、春の気配も感じられ、会場のアーリーバードさんではかわいらしい木製のお雛様が飾られていました。ころんとしたフォルムにきゅんとさせられるのですが、なんとこのお雛様、まあるい容器にすべて収まってしまうのだとか。職人さんの巧みな技に感動。
会場準備をしていると、「こんにちは~」と、威勢よく、あお馬さん、ひろ馬さんがそれぞれいらっしゃいました。いいですね、今宵の主役が登場すると、会場の空気がピシッとひきしまり、良いグルーヴが漂いはじめます。
茶屋しゃんりんでは、はじめての兄弟会! いや、あお馬さん+ひろ馬さんの兄弟会も実ははじめて!?
そんな、はじめてづくしの茶屋しゃんりん。
だけど、おふたりの人柄と、そして落語と酒と酒菜のぬくもりが、冬の夜をほんのり照らし、ほくほくあたたかい夜となりました。

一、『半分垢』ひろ馬
トップバッターはひろ馬さん。まくらで、今回の茶屋しゃんりんのために「この店のあの一品」としてあげていただいた、早稲田大学からほど近い「メルシーのラーメン」についてたっぷりとお話してくださいました! 本屋しゃんもひろ馬さんのおすすめとあって、しゃんりん開催前に行ってきました。もちろん、注文したのはラーメン。ん~~~がっつりとした味付けで食欲が進みます。コショーとの相性もバツグン。これは元気になる味だなあと合点がいった次第。オムライスもおいしそうだったな。ひろ馬さん、教えていただきありがとうございました!
さて、演目は、『半分垢』
旅巡業から久方ぶりに自宅に帰ってきた関取が、昼寝をしているところに贔屓衆が訪ねてきた。おかみさんは関取が旅先でいかに体が大きくなったかと、いささか誇張気味に自慢した。それを関取が陰で聞いていて、謙虚になりなさいと諭すのですが…。
ひろ馬さんの真面目さがピーンッと伝わってくる丁寧な噺ぶり。しかし! 関取の自慢をする女将が妙に色っぽく、いい声。話している内容は、なかなかにぶっ飛んでいるのですが、どこか愛おしく響いてきます。芝居っ気が強すぎず、でも要所でキラッと見せる表情の作り方や声の跳ねが、笑いを誘い、贔屓衆と一緒におかみの話を聞いているような心持になりました。

二、『味噌蔵』あお馬
続いて、あお馬さんは、濃厚仕立ての『味噌蔵』を。
けちで知られる味噌問屋の主人・けち兵衛が、しぶしぶ迎えた妻の出産で里へ向かう。料理を持ち帰り、新しい下駄を履くための計略も万全。一方店では、番頭らが主人の留守をいいことに羽を伸ばす。晩飯には好きな食べ物を注文する。帳簿の方は番頭が「どがちゃか、どがちゃか」でごまかすという寸法。 「鯛の塩焼き」、「ぶりの照り焼き」、「天ぷら」、「寿司」、「刺身」、「たこの酢の物」、「さつま芋」、「味噌田楽」…もちろん酒も大盤振る舞いなのですが…。
今回は、『味噌蔵』のスペシャルバージョン! 店の者たちのどがちゃか宴の献立を「独活と春ワカメのきんぴら」「新牛蒡とじゃこ、薬味の卯の花」「ちりんの麻婆豆腐」「蕗のとうと挽肉のそぼろ丼」と、今日の茶屋しゃんりんの献立に変えて、噺の中に入れ込んでくださいました! こんな憎い演出が嬉しいとともに、さすがだなと脱帽しきりです。
あお馬さんの通る声と絶妙な節回しで、宴のわちゃわちゃした雰囲気がとてもリズミカルに表現され、ご陽気ご陽気! しゃんりんの会場も巻き込んでどがちゃかだーと、やんちゃなグッドバイブスが漂います。しかし、決して勢い任せではなく、味噌のようにじっくりと発酵し、笑いをふつふつ沸きおこしていました。
あお馬さんの落語は、笑いの裏に人生の滋味、噺家としての「地力」が感じられるのが魅力だと思うのですが、今回も落語力と人間の愛おしさが見ごとに立ちあがっていました。
それにしても、この演目、あお馬さんの手腕もあって、味噌の香りすら漂ってきそうで、熱燗と相性よすぎでは?

さてここで、お仲入り~。
みなさんも、焼ける味噌のいい匂いに誘われてか、たくさん野良ちりんの料理をご注文いただきました。ばあちゃん家でできそうな派手じゃないけど、胃袋と心をつかんでいく、それが野良ちりん料理らしさ。
今日、野良ちりんが用意したのは、ふたりが好きな「麻婆豆腐」や、新潟の発酵調味料「かんずり」を使ったおつまみなど、ふたりの“好きな食べ物”から着想したおつまみがずらり。噺の熱量にぴったりマッチするおいしさで、辛みと旨みと笑いとが、絶妙にマリアージュ!
野良ちりんの熱燗と酒菜のおかげで、会場の空気も、お客様の心も和らいで、より、落語の世界により没入できるなとしみじみです。

三、『二人旅』ひろ馬
ここで再び、ひろ馬さんが『二人旅』で登場。
長旅で疲れた江戸っ子二人。腹が減って歩くのがいやになったという相棒の気を紛らわそうと謎かけをしたり、都々逸を歌ったり、言葉遊びをしながら旅を続ける。やがてひと休みしようと入った茶屋。店番のとぼけたおばあさんが出てきて、酒やつまみを注文するが、なかなか話がかみ合わず…。
なまり口調になんとも味があって、はじめからほのぼのした気分になりました。茶屋のおばあさんの声もいい感じに愛らしく…しかも、茶屋しゃんりんで茶屋が出てくる噺を選んでいただけるのは嬉しい!
何気ない旅路に一場面ですが、ひろ馬さんの「地の優しさ」と登場人物ののほほんとした雰囲気が重なり、江戸の人情味を感じられました。

四、『堀の内』あお馬
トリは、あお馬さんの『堀の内』。
粗忽者の熊五郎。なんとか自分の粗忽を治そうと、堀之内の御祖師様に毎日お参りに行くことするのですが、翌朝女房に起こされると堀之内へ行くことを忘れている。それだけでは終わりません。顔を洗おうとすれば箪笥を開けて水が無いと言ってみたり、ネコを手ぬぐいと間違えたりと、粗忽っぷり大全開。ようやく、堀の内を目指して、家を出るのですが…。
まっすぐなのに空回り、でもどこか憎めない熊五郎のそそっかしさと人間らしさをあお馬さんがくっきり描いてみせてくれました。あお馬さんの噺には、どこか「だめな人」を包み込む優しさがあって、ダメだからこそ人間だよなあと思わせてくれます。
どっしりした芸と軽妙なユーモアが絶妙な配分で、安心して落語の世界に身をゆだねられる、まさにトリにふさわしい一席でした。
ちなみに…「タオルの反抗期」がわたしの耳に焼き付いて離れません(笑)

月曜の夜からご機嫌に
会場を出る人たちの顔はみんなちょっとゆるんでいて、
たぶん心のなかでは、「今日の“お気に入りの一席”」を反芻してたかもしれません。
落語を聴く、味わう。そして、笑って、ちょっぴり酔っ払う。
落語が好きな人も、はじめての人も、気づけば「また来たい」と思っていただけていたら嬉しいなと、みなさんをお見送りしながら思うばかりです。
これからも「月曜日の小さなごほうび」として、茶屋しゃんりんがみなさまのそばに寄り添えますように。
ご来場いただいたみなさま
柳家あお馬さん
柳家ひろ馬さん
アーリーバード・アクロスのみなさま
手伝ってくれたみなさま
広報にお力添えいただいたみなさま
おいしい食材とおいしいお酒
そして、野良ちりん!
関わってくださったすべての方に心から感謝をお伝えします。
また、みなさまの月曜日の夜を、一週間のはじまりを彩れるようにがんばります。
また次の季節の「茶屋しゃんりん 」でお会いしましょう!!



嬉しい追伸
柳家ひろ馬さんが2025年11月上席よりに二ツ目に昇進されるとのこと!!
おめでとうございます!!!
茶屋しゃんりんメンバー一同 心よりお祝い申し上げます!!
茶屋しゃんりん 秋 詳細

落語 日本酒 酒菜「茶屋 しゃんりん」冬
第三夜 :春風亭弁橋
日程:2025年2月17日(月)
時間:19:00開場、20:00開演
※公演は21:30頃終演予定。多少前後する可能性があります
場所:アーリーバード・アクロス(〒170-0003 東京都豊島区駒込1丁目40−14)
木戸銭:3000円 ※前菜付き!
※事前にチケットをご購入ください
ドリンク+フード:キャッシュオン 500円~
https://honyashan.com/welcome/shanrin03-yanagiyaaoba-hiroba/
