百島から尾道に帰ってきた。
黒が深まってる。
海がオイルプールに見える。
ツヤツヤテカテカ。
腹ごしらえをする前に、かねてより伺いたかった本屋さんへ。
尾道にある本とCDのお店「本と音楽 紙片」さん。
本とCDを愛する店主が営むお店です。
わたしが間借りしている下北沢のBOOKSHOP TRAVELLERの店長で、BOOKSHOP LOVERとしてご活躍中の和氣正幸さんに教えていただいたの。それも、あつ〜〜く、ね。和氣さんの著書『日本の小さな本屋さん』(2018、エクスナレッジ)でも紹介されています。それから、ああ、訪れたいなと思って、ようやく尋ねることができる日がやってきました。
尾道港から商店街をてくてく。
まだ夕刻だけど、夜がどーんと襲ってきているかのようで、商店街のほとんどのお店がシャッターをおろして眠りについていました。昼間は賑やかなのかな、なんて想像しながら、シャッター越しにそれぞれがどんなお店かを考えながら、静かな商店街を進みます。
しばらくするとゲストハウス「あなごのねどこ」が見えてきました。
「紙片」さんは、この奥。
ドキドキしながら細長〜〜〜い道を、奥へ奥へと進みます。
一番奥までやってきた。紙片さんの看板もある。
ここなんだけど、入口はどこだ……。
オロオロキョロキョロ(呪文みたい)していると、お姉さんが「紙片ですか?」と声をかけてくれた。「はい!」静かな夜にふさわしくない大き目の声で返事をしてしまって、赤面。「ぜひぜひ。紙片はこちらですよ」と、優しく案内してくださった。お店の方かしらと思ったけど、違う。どうやら常連さんらしい。いいなあ。常連さんが、ほかのお客さんを案内する。愛されてるお店なんだなって、お店に入る前から感じた。
常連さんの優しさに導かれ、入店。
気持ちいい音楽と、あたたかい照明、店主と常連さんのいい具合の話し声。
ん〜じっくり本と向き合えそうだ。
まず目に入ったのは、原民喜の詩集。
原氏が千葉にゆかりがあることを知らず、この詩集で千葉について書かれていることを発見し、不思議な引き寄せを感じた。千葉市美術館の選書に是非ともいかしたいと思う発見だ。
振り返り、児童書と言われる本がたくさんの棚に目をやると、とっても懐かしいタイトルが目に入った。
『ともだちは海のにおい』(理論社)
工藤直子
長新太
コドクが好きで、お茶好きないるかと、同じくコドクが好きでビール好きなくじらがお友だちになるお話。ホッと休めるおやすみどころのような本。海ってどうやってできたの?宇宙ってなに?好きになるってなに?そんな、誰しもが小さい頃に感じた疑問が散りばめられて、いるかとくじらと一緒に、哲学的海にぽちゃんと潜れる本。だけど、どこかちょっとさみしいんだな。読み終わると、あったかい気持ちになりながら、ちょっと海の潮の香りが残る感じ。そんな気持ちも愛おしいなって思える本。
大好きだったんだ、この本!!!
小さい頃、何度も何度も読んだんだ。
海が見える街で、海が見える街の本屋さんで、海の匂いのする本に再会できました。
不思議よね。さしてある本、つまり背表紙と目があってドキッとする瞬間の感動って、とても好きよ。竹取物語みたいな感じかな。そこだけ光ってるんだよね。ここにいるよ〜って。
さびしいくらいしずかだと、コドクがすきなぼくでも、だれかとお茶を飲みたくなる
『ともだちは海のにおい』(理論社)12頁
といるか。
「ああ。星がいっぱい。……なんてしずかなんだろう。さびしいくらいだ」
『ともだちは海のにおい』(理論社) 14頁
そして、つづけてこういった。
「さびしいくらいしずかだと、コドクが好きなぼくでも、だれかとビールが飲みたくなる」
とくじら。
こんな2人の気持ちが、2人を引き寄せて、2人がともだちになっていく。
一人旅をする時の、わたしの気持ちだわ。何十年か越しに、よりよくわかる、いるかとくじらの気持ち。コドクとさびしさがわかるだなんて、わたしも歳を重ねたのね、なんてちょっとセンチになってみたり。
店内を奥に進むと、杉本さなえさんの展覧会「Close to my ears」が開催中でした。墨汁の墨と朱色の2色のみで描くイラストレーターさん。墨の線は、繊細だけど、どこか強くてしなやかだ。風がそよぐと線が、風に合わせて、そう水辺の葦のように、一面に広がる稲穂や麦のようにそよそよかさかさ、ふわふわ動き出しそう。朱色はマッチの炎のよう。マッチ越しに見る世界は、ぼわ〜んっとあったかく見える。杉本さんが描く絵は、とっても動いていて、どこかにある世界の風と光が肌を通り抜ける、不思議な気持ちになる。
今回の展覧会は、2018年に刊行された『Close Your Ears』(えほんやるすばんばんするかいしゃ)の姉妹本『Close to my ears』の刊行記念展。杉本さんは2016年に紙片さんで個展「耳を閉じて」を開催。その時に展示された作品が、このたび、4年の時を経て、紙片さんと、えほんやるすばんばんするかいしゃ、そのほか多くの方の手と愛が加わって「本」として新たに誕生したの。展覧会は、紙片さんの呼びかけに、当時作品をご購入された多くのみなさんが応え、いろいろな人の元に旅立っていた絵の大半が、改めて紙片さんに集結し、実現。こんな素敵な機会にたちあうことができて、幸せでした。
そこで関連書として、えほんやるすばんばんするかいしゃさんから刊行されている本が紹介されていました。
その中の一冊、
『わたしはしらない』
まつむらまいこ
をそっと手に取る。
するとびっくりだ。
小さい頃に夜な夜な考えていたこととピタリと一致。
誰かの視線や感覚は絶対わからない。
さっきまで学校で一緒だったあの子が、今どこで何をしているのかわからない、母親が料理をしながら何を考えているのかわからない、赤い色は本当に赤い色なのだろうか、このカタツムリの行き先はどこだろう。
毎晩毎晩、布団の中で、そんなことを考えていた。
そう、わたしはしらない。
なーんにも。
わたしはわたしで、誰にもなれない。結局ひとりぼっち。という怖さと不思議さ。しらないことへの好奇心より、怖さ、だ。夜、そんなことを考えすぎて、宇宙にぽーーーんと投げ出されて戻ってこれなくなってしまう感覚。そんな感覚が、この絵本に漂っている。
コドクがすきだ。だけど、そんな夜は誰かとお茶をして、ビールを飲んで、その宇宙から助け出してほしくなる。
まつむらさんの絵は優しい。だから、そんな怖さと不思議さを楽しませてくれる。
『ともだちは海のにおい』『わたしはしらない』
この2冊の本をレジに持っていく。
あまりにもこの2冊との出会いが嬉しかったので、なぜこの本たちを選んだのか、紙片さんに伝える。それから紙片さんとしばし本のことや、紙片さんのこれまでやお店のこと、いろいろお話しさせていただいた。楽しかった。
いい時間だったなあ。
いい場所だったなあ。
いい「間」だったなあ。
まさか、尾道で新しい出会いをしながら、小さい頃の自分と再開できるなんて、夢にも思わなかった。
小さい頃のわたしはしらない。
30歳をすぎた自分が、こんな旅をしていることを。
小さい頃のよくわからない、時に、怖かった感覚が、今こうして蘇っていることを。それがとっても幸せなことを。
工藤直子さんは、「心はいそがしい。いそがしいがおもしろい」という。
百島にはじまり、紙片さんへ。
まさに、心はいそがしく、だけど、そんな心をおもしろがれた1日でした。
よし。
いよいよ、お腹が空いた。
くじらのせいでビールもすいた。
哲学的にビールを飲み、哲学的に夜の散歩をしよう。
追伸
夕ご飯は、ビールと尾道ラーメン(ハーフ)に落ち着きました。
追伸2
杉本さなえさんのブログ「SSノケノヒビ」がステキ。
http://sanaesugimoto.jugem.jp/
展覧会情報
杉本さなえ展覧会「Close to my ears」
会期:2020.11.20(金)〜12.9(水)
時間:11:00〜18:00(木曜定休)
処:本と音楽 紙片
広島県尾道市土堂2-4-9 あなごのねどこの庭の奥
https://www.instagram.com/p/CIW-IZFlCXR/
お店情報
本と音楽 紙片
722-0035
広島県尾道市土堂2-4-9 あなごのねどこの庭の奥
※日々のお知らせや、詳細は、紙片さんのWEBやtwitterやinstagramをチェックしてね。
WEB:https://shihenonomichi.wixsite.com/home
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えほんやるすばんばんするかいしゃ
166‐0003
東京都杉並区高円寺南3‐44‐18
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