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マティス展Henri Matisse: The Path to Color@東京都美術館~2023年8月20日

投稿日:2023-08-14 更新日:

「東京では今、マティス展やってるんだよね。いいなあ」
蕎麦をすすりながら父がつぶやく。

古町の藪蕎麦で今回の旅での最後の家族団欒だ。
故郷に帰るのは1年ちょっとぶり。
新潟らしい夏暑さの中(夏は暑い! 冬は寒い!という潔さ)、いただく蕎麦は格別で、火照った身体が良い感じに冷えてくる。

「そういえば、マティス展やってるな」
と、蕎麦をつゆにつけながら思い出す。
ちょんっと少しだけ浸して、そこから一気に蕎麦をすする。コシがあって、蕎麦の香りがふわっと立ち込めておいしい。

「東京はいいな。素晴らしい芸術にたくさん出会える」
「東京行きたいね」
両親の会話。
昔の両親なら、すぐにでも東京にとんで、マティス展を見に行っただろうなと思う。
だけど、今はそうはいかない。父は多発性骨髄腫とたたかう日々。母も父に寄り添い一緒にたたかっている。なかなか自由に動くことができない。

混んでいるという噂のマティス展。
マティスは、大好きなアーティスト。しかし、ぎゅうぎゅうの展示室を想像するとちょっと億劫で、まあ、またいつか見れるし、みたいな気持ちで、あまり行くぞ!! という気持ちになっていなかったのが正直なところ。


そんな中、触れた両親の言葉。ああ、なんで「また、いつか見れるし。混んでそうでめんどくさい」なんてもったいない気持ちになってしまっていたのかなと反省をした。出会える時に出会わないと、体験できる時に体験しないと。いつかなんて、来ないかもしれないんだから。


東京に戻り、真っ先に「マティス展」に向かった。
上野駅から上野恩賜公園を通り、東京都美術館へ。
太陽が容赦なく照り付けて、確かこの日も35度はゆうに越えていただろう。
木陰を歩けばいいものの、夏が好きなわたしはあえてギラギラしている道を選ぶ。
頭上には、夏休み!! というテンションにさせてくれる空。
夏の空は悔しいほどデカくて生気に満ちている。

美術館に到着した時は、すでに汗だく。
呼吸を整えて入場の列に並ぶ。
噂通りの大盛況ぶり。

もう1度言うと、マティスは好きなアーティスト。
学生時代に《ダンス》を立体にすることに挑戦した。それくらい好き。絵の反対側に手を突っ込んで、描かれていない部分も感触を確かめたくなってくる。

だから、本展では自分の好きを再確認するような体験になるかもなと思っていた。
が、しかし。やはり新しい出会いや発見、感動があった。しかも個人的には大収穫だ。

「2章ラディカルな探求の時代1914–1918」でマティスが描く窓がとても魅力的なことにはっとさせられた。
《金魚鉢のある室内》
とても静かな作品。真ん中の金魚鉢で泳ぐ金魚と、窓の外の遠くに行きかう人々がささやかな動きを与えている。
自身が部屋主にでもなって、ぼんやりと金魚と人々の動きを眺めている心地になる。その微細な動きが、内と外をかき混ぜるかのようで、だんだんまどろんでいく。

《コリウールのフランス窓》
真っ黒に塗りつぶされた中央部分の圧倒的な力強さに動けなくなる。
吸い込まれたらどこに行っちゃうんだろうという怖さもあった。決して、ウェルカムではない、どこかへの入り口としての窓。

「5章 広がりと実験1930–1937」
本展で一番く見入った絵は《夢》。「アトリエでのアシスタントを務めたのちに、秘書・お気に入りのモデルとして、1954年の画家の死までその傍らにいたリディア・デレクトルスカヤを描いた作品のひとつ(公式WEBサイトより)」
安心感と開放感の心地よさに沈みこんだ。青が柔らかくてとても美しい。

「7章 切り紙絵と最晩年の作品1931-1954」
マティスの切り絵は楽しくて大好きだ。
この部屋もやはり最高にJAZZYで、絵で踊れる!と思った。
そして、絵と踊れる。

1943年に出版された『主題と変奏』がとても興味深かった。
1枚の木炭画を主題とし、それを変奏していったものだ。ここにも音楽の香りが漂う。
とてもおもしろい試みだと思う。一つのものを様々な角度から見てみる、さまざまな手法で表現してみる。
この視点ともっと向き合っていくと、いろんな企画のアイデアが生まれてきそうでわくわくする。
展覧会に行くと、作品を愛でるだけではなく、美術家の思考を通じて、さまざまなアイディアのヒントに出会うことができ、と改めて美術に触れる大切さも噛みしめた。

なんて気持ちがふくふくとする展覧会だろう。

そんな本展は結構広い範囲で写真撮影OKだった。
写真を撮る、メモを取る、録音する…という記録行為は、その背後に忘却することが横たわってる。
忘却しないために記録するのだから、記録と忘却は表裏一体であることを前提に、記録することによって安心して、記憶をもしようとしなくなるかもしれない、記憶も忘却されてしまうのかもしれないと感じた。

わたしは写真も撮るけれど、展覧会でも落語でも、まず実践していることは脳内で言語化することだ、
見た瞬間、聴いた瞬間をすぐに頭の中で言語化するようにしてる。それも、あまり感情を入れずに見たままや聴いたままを。
青いベッド? ソファーの上に、布を纏わない女性が横たわっている。

その次に、好きだわ〜という感情が溢れる作品は、なぜそう感じるのかを言語化するようにする。
何て安らかな寝顔だろう、とても安心している様子が伝わってくる…。

このように、都度都度、文字にお越していくと、不思議と記憶されやすくて、思い出す時も、スルスルっと引き出しを開けて取り出すことができる気がしているの。

最後に、ミュージアムショップで図録と数枚のポストカードを買った。
自分のためでなく、両親への贈り物だ。
わたしに美術との出会いをたくさん与えてくれた両親へ。

まだまだ暑い公園。
故郷の空とちょっと違う夏の空。
また陽が照り付ける道を歩いて帰った。

マティス展

Henri Matisse: The Path to Color

2023年4月27日(木)~8月20日(日)
東京都美術館
https://www.tobikan.jp/exhibition/2023_matisse.html

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