
【今回の演目は…】
一、藁人形 柳家あお馬
一、浮世絵噺 渡邉晃
― 仲入り ―
一、居残り佐平次 柳家あお馬
開場から開演までの時間には、ピアノの生演奏が。
奏でるのは、渡邉晃。会場にはやわらかなジャズが流れ、仲町の家の優しい空気がよりあたたまり、みんなでゆったりと開演を待ちました。
その裏で本屋しゃんは、あっちにバタバタこっちにバタバタ。
会のはじまりは、柳家あお馬と本屋しゃんのトークからスタート。最近行った旅の話や、印象に残った宿について話しながら、お客さまと少しずつ空気を共有していきます。みんなふわっと心をほどいて、楽しめる準備がここで整いました。
準備が整ったところで、すっかりおなじみのJAZZピアノの出囃子で幕が開きます。曲は『Blue moon』、演奏はもちろん渡邉晃。本屋しゃんは袖で襖を開け閉めする係。高座にあがるあお馬の後姿は、いつも勇ましくてかっこいい。行ってらっしゃいと見守りつつ、あお馬が袖に残した気配から、ああ、今日もかましてくれるななと、その時点でわかったりするものです。
『藁人形』 柳家あお馬
一席目は、『藁人形』。
実はこの噺、千住宿が舞台。
千住開宿400年記念版ということで、久しぶりに『藁人形』をかけたというあお馬。
宿場町を舞台にした落語は数あれど、千住が舞台となっているものはそう多くありません。そんなレアな噺を、しかも実際に千住の地で聴けるというのは、とても貴重な体験。空間と物語がシンクロして、自然と物語の中に引き込まれていきます。
裏長屋に暮らす願人坊主・西念が、若松という遊郭に通い、「おくま」という女と親しくなっていく。ある日、おくまから「今すぐ20両貸が必要だ」と相談され、なけなしのお金を渡すのですが…。
男と女、金、そして疑念、そして怨念へ。じわじわと噺のトーンが変わっていき、やがて怪談めいた空気に。何かが起こりそうな雰囲気がぷんぷんしますが、案の定、恨みつらみの状況に。
会場全体が息をのんで物語の行方を見守るなか、あお馬の語りが、静けさの中にぞっとするような気配を立ち上らせていきます。
静かな空気を作り出し、その上で背筋が凍るような緊張感をつくり出せるのは、人の機微を丁寧に、鋭く描き出せるあお馬ならでは。静寂の中に、迫力満点で客席をくぎ付けにした一席、お見事でした。
『浮世絵噺』 渡邉晃
高座からスクリーンへの転換時間には、あお馬がピアノで登場。なんとも楽しそうに弾く姿に、あたたかい拍手が起こります。あとからお客様に、「あお馬さんが楽しそうにピアノを弾いているのがよかった」と感想も。楽しい気持ちは伝播しますね。さっきまでの『藁人形』のドロドロした空気がやわらぎ、次の演目に向けての空気づくりもばっちり。
続きましては、渡邉晃による『浮世絵噺』。もともとは浮世絵講座という名前だったのですが、渡邉晃の語りはもはや講座というか演芸か?!というおもしろさが漂うので、『浮世絵噺』と命名。だんだんとこの名前も定着してきたなと感じています。
早速、浮世絵噺らしさ、TRiPらしさが醸されます。
先の『藁人形』にちなんで、鈴木春信『丑の時参り』を紹介。春信らしいかわいい女性が涼やかな顔で、白魚のような美しい手で釘と金づちを握っている様は、まあ、逆に怖さが助長される。いや確かに、と会場からも納得の笑いが起こります。落語から浮世絵のバトンタッチ。いつもTRiPでは、あお馬の落語と渡邉晃の浮世絵噺がこのようにリンクして、お客様の想像力をより掻き立て、江戸時代に深く旅していただくことを目指しています。
さてさて今回の『浮世絵噺』も千住宿を描いた浮世絵を中心に紹介。…とはいえ、やはり浮世絵でも「千住宿」はレア!「実は今日の浮世絵で、千住宿ほぼコンプリートできます」と渡邉さん。まじか!!千住宿はあまり落語にもなっていないし、浮世絵にも描かれていないし…なぜなのでしょう。
次々紹介される、千住宿の浮世絵に、地元の方々から「ここ、見たことある!」といった声も。現代と過去の風景が重なる瞬間に、思わずうなづくお客さまの姿も印象的でした。
品川宿や内藤新宿など、他の宿場町の浮世絵も登場。並べて見ると、それぞれの町のにぎわいや雰囲気の違いが見えてきて、まさに“宿場町ツアー”気分に。千住宿にいながら、旅気分とはTRiPの醍醐味でもあります。
さらに、渡邉晃名物「ズームイン!」も健在。「ここにこんな人が」「この隅っこに…!」と、見逃してしまいそうな小さな人物やモチーフに光を当てる語りはユーモアたっぷりで、会場からは笑いが絶えません。
ちなみに降壇時には、本屋しゃんがピアノを演奏。今回は片手のみで失礼。いつ上達するのか…。

『居残り佐平次』 柳家あお馬
仲入りをはさんで、あお馬が再登場。今度は、品川宿を舞台にした『居残り佐平次』。
落語でも千住宿だけでなく、さまざまな宿場町の様子を楽しんでいただきます。一席目はダークでぞっとする噺でしたが、こちらは何やら賑やかで華やか。
とある長屋に住む佐平次という男が、友人たちを集めて品川宿の遊郭に行こうと提案する。友人
たちは遊郭で遊ぶような金はないというが、佐平次が金のことは任せておけと言うので、連れ
立って品川へ向かう。一行は品川の遊郭で、飲んで食べての大騒ぎ。翌朝、勘定の心配をする
友人たちを家に帰し、一人残った佐平次は、勘定を取りにやってきた店の者に、さっき帰った仲
間がまた金を持って遊びに来る、それまで私の方で場を繋いでおこうなどと言い、勘定をはぐら
かしながらまた酒を飲むのですが…。
佐平次のずうずうしさと肝の座り方には驚かされますが、なぜか憎めないのがこの男の魅力。
あお馬のリズミカルな語りが、佐平次のキャラクターにぴったりハマっていて、会場の空気がどんどん明るく、軽やかに変わっていきます。あお馬の落語と言えば、稽古のたまもの「言い立て」が圧巻なのですが、今回も長いセリフやオノマトペと、見どころ聴きどころ満載でぐいぐいと会場を虜にしていました。いやはやご陽気ご陽気!
一席目の重く静かな空気とは打って変わって、二席目は笑いと躍動感があふれる展開。まさに緩急自在。このコントラストが、TRiPの魅力のひとつでもあります。
『浮世絵噺』で渡邉晃が紹介した歌川芳藤の『廓通色々青楼全盛』、鳥人間?!が遊郭で遊ぶ様を描いた浮世絵絵と、『居残り佐平治』が自然につながる構成に。「あっ、浮世絵で見た世界が、今ここに!」と気づいた瞬間のうれしさよ。落語と浮世絵がちゃんと出会っていました。

3人の“旅”は、まだまだ続く
最後は恒例の、出演者3人のサイン入り色紙プレゼント。
TRiPは、落語・浮世絵・音楽という異なるジャンルを旅するように行き来しながら、ひとつの「場」を作り上げていく会です。これからも“文化の交差点”を創っていきたいと思います。
この三人だからこそできる組み合わせで、これからも攻めながら、でもあたたかく。
次回は2025年秋に開催予定です。次回のTRiPも、どうぞお楽しみに。

落語会詳細

千住開宿400年記念版
「TRiP ー落語×浮世絵ー」
第6回 テーマ:宿
開催日 2025年3月15日(土)
時間 18:00開場、18:30開演〜20:30終演予定
※18:00~開演時間までOPENING ACT 渡邉晃によるJAZZピアノ
会場 仲町の家 (〒120-0036 足立区千住仲町29-1)
https://honyashan.com/welcome/20241116trip-rakugo-ukiyoe-06/
演目
一、藁人形 あお馬
一、浮世絵噺 晃
一、 居残り佐平次 あお馬
アーカイブ
これまでの会の詳細やレポートを掲載しています。

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足立区を知るポータルサイト「あだちる」さんに取材レポートを書いていただきました